今回の動画はメンバー同士のクリスマスプレゼント交換会という内容でした。
いつもながら音声学的に関連する話題が動画の中に大量に出てきていましたが、ちょうど先日授業で扱った話題に関連する実例が出てきたので、今回はそれを取り上げてみます。
前回(2023年12月12日)の動画では、冒頭あいさつの「どうも~」の部分に相当大きな変化がありましたが、今回の動画では通常通りに戻っていました。
締めのあいさつも通常通りといった印象です。
大橋くんが選択した(もらった)プレゼントに入っていたものの一つに「どっ汗」というサウナベルトがありました。
動画内の注によると「どっ汗」と書いて「どっかん」と読むらしいですが、大橋君は最初これを見て「どっあせ」と読んでいました。
「汗=あせ」という漢字の読みを考えると、確かに「どっ汗」を「どっあせ」と読むこともできるはずですが、この「どっあせ」という読み方には何となく違和感を覚える(=少なくとも「どっかん」と読むときの発音しやすさに対して、言いにくさとか不自然さを感じる)人が多いのではないかと思います。
実際、大橋くんの発音を聞いてみても、「どっあせ」と発音している時はちょっと詰まってぎこちない感じの発音になっているのに対し、メンバーから指摘を受けて「どっかん」と言い直した際は特に詰まった感じはしていません。
大橋くんによる「どっあせ」と「どっかん」の発音
こうした感覚が生じる理由は、音声学的にある程度説明が付きます。
ポイントは、促音(小さい「っ」)の音にあります。
「どっかん」にしても「どっあせ」にしても、促音が入っていますが、この促音というのは色々な意味で特殊な音であることが知られています。
まず、この促音は「特殊拍」と呼ばれるグループに属する音の一つで、単独では自立できず、原則、一つ前の音に寄生するような形でしか出てくることができません。
従って、単語の途中であれば問題ありませんが、単語の先頭には基本的に促音は来れません(「ほっぺ」はOKでも「っぺ」は変、という具合)。
また、発音面では、後ろに来る子音と同じ音になります(促音をQで書くとすると、poQpu → poppu; kiQto → kitto; raQkii → rakkii)。
さらに、促音が生じることができるのは原則として阻害音(閉鎖音、破擦音、摩擦音)の前のみであり、共鳴音(鼻音、接近音)や母音の前では強調表現などの例外的なものを除けば基本的に生じません(閉鎖音、摩擦音、・・・といった用語に関しては、子音の分類方法に関する用語解説のページをご参照ください)。
促音の後に共鳴音や母音が付いた「ポッム」「キッノ」「アッウィー」「マッエ」のような音は、促音の後に阻害音が付いた「ポップ」「キット」「ラッキー」「ハッピー」「ウィッシュ」といったものと比べてやや不自然に感じたり、発音しにくいような感じがしますが、その理由は以上のような促音の生起に関する制約が働いているためだと解釈できます。
さて、上記の点をふまえて、「どっ汗」の読み方として出てきた「どっかん」と「どっあせ」の2つを見てみましょう。
「どっかん」の方は、促音の後にk(=阻害音)が来ていて、促音の位置が語頭ではないなど、促音の生起に関する制約に対して違反するところは特にありません。
一方、「どっあせ」だと、促音の後に母音(阻害音ではない)が来てしまっていて、この点で促音の生起に関する制約に違反してしまっています。
なので、無理に発音しようとすれば言えないことは無いけれど、ちょっと変な感覚がするということになるわけですね。
(なお、発音的な自然さとはまた別のレベルで、「どっかん」だとオノマトペの「ドカン(と爆発する)」の強調形と音が共通していて、既存語をイメージすることができてより自然に感じやすいのに対し、「どっあせ」の場合は既存語にこういった音がない(そもそも、促音の後に母音が来る単語が基本的にない)のでより不自然に感じやすいといった語のなじみ度に関連するような要因もあると思います。)
本文中で取り上げたメンバーの発言や音声・図はすべて下記の動画の該当部分(具体的な個所は本文中に明記)から引用したもの。