なにわTube【2024年8月6日~8月27日】感想文

2024年8月になにわTubeにアップされた動画(ショート動画や楽曲のみの動画を除く)は、火曜日の定期更新分(8月6日、13日、20日、27日)と、9日の藤原氏ソロ動画、13日のライブ配信のアーカイブ動画の6種類でした。

今月分の動画についても音声学的に興味深かった発音・音声現象について取り上げてみます。


冒頭・締めのあいさつ

この期間の冒頭・締めのあいさつ(※メンバー7名による定型のあいさつ)の有無は以下のような感じでした。

アップロード日冒頭あいさつ締めのあいさつ
2024年8月6日×
2024年8月9日(藤原氏ソロ会)
2024年8月13日(ライブ配信)
2024年8月13日
2024年8月20日
2024年8月27日〇(せーの無し)

藤原氏ソロ会やライブ配信でも、冒頭・締めの部分であいさつ(例:「どうも、なにわ男子の藤原丈一郎です」「YouTubeの生配信をご覧の皆様こんにちは、なにわ男子でーす」など)がされていますが、ここでの「冒頭・締めのあいさつ」はメンバー7人による定型文として出てくるあいさつ(例:「せーの/ちゅきちゅきー/どうも/なにわ男子でーす」「以上/なにわ男子でした」)を指しているので、これらは該当なしという扱いになっています。

ソロ会等の特殊なパターンを除くと、8月6日のみ締めのあいさつがありませんでしたが、それ以外の部分はすべて平常通りでした(細かい点を言うと、27日は最初の「せーの」がありませんでしたが、これに関しては過去にも事例があるので通常運転の範囲内と思われます)。

ちなみに、なにわTube動画では前編・後編のような感じで複数回に分かれる場合、冒頭あいさつは初回のみ、締めのあいさつは最終回にのみ出現するというパターンを取ります。

8月6日動画は大西くんの人生年表を作るという内容であり、特に複数回に分かれた動画ということではありませんでしたが、それにもかかわらず締めのあいさつが無かったということは、大西くん以外のメンバーについても人生年表を作るタイプの動画が用意されている(まだ公開されていないだけ)ということを意味しているのかもしれません。


借用語:fの借用パターン

2024年8月6日動画0分49秒付近:ヘッドホン

2024年8月6日動画の冒頭部分で、場をつなぐようにと急に話を振られた高橋くんが最近ヘッドホンデビューしたと語る場面がありました。

なにわTube動画 2024年8月6日0分49秒付近より

この「ヘッドホン」や「デビュー」など、日本語以外の言語から入ってきた単語のことを借用語(または外来語)と言います。

借用語全般に当てはまるかどうかは分かりませんが、英語から日本語に入ってきた借用語に関して言えば、借用元の音と借用先の音はほぼ1対1の対応関係になっていて、単語によって音の対応関係が変わることは滅多にありません。

例えば、英語の母音/ʌ/は、綴り字がどうであれ、母音aとして借用されるのが一般的です。

綴り発音記号借用パターン
comekʌmkamu
duckdʌkdakku
doubledʌbldaburu
bloodblʌdburaddo
sunsʌnsan

ただし、/ʌ/→/a/という対応ルールも絶対的なものではなく、button(ボタン)やLondon(ロンドン)、oven(オーブン)のように母音の発音はʌだが日本語に入った際にa以外の母音になるといった例外的な語もあります。

このように、借用語を音声学・音韻論的に分析するうえでは、どういうルールがあって、それに対してどんな例外があるのか、また、例外が生じる理由は何か?といった点が注目すべきポイントになります。

前置きが長くなりましたが、このような観点からすると、今回取り上げる「ヘッドホン」は例外的で興味深い借用パターンとなっている単語だと言えます。

ヘッドホンは英語のheadphone(s)から来ていると仮定したとき、単語を構成するheadは「ヘッド」、phoneは(※phは発音上は/f/です)「フォーン/フォン」なので、「ヘッドフォ(ー)ン」という形で借用されることが予想されますが、動画ではなぜか「ヘッドン」となっています。

英語のhの音とfの音は、それぞれ日本語では「ハ行」と「ファ行」(小学校では「ファ行」を習った記憶はありませんが、ともかく「ファ、フィ、フ、フェ、フォ」のことです)として取り入れられるのが普通ですが、「ヘッドホン」の例ではfが「ハ行」と対応していることになり、通常の対応パターンとは異なる形であることが分かります。

動画の中ではその後「イヤホン」という語も出てきますが、これもearphone(s)から来た単語だとすると、やはり「イヤフォン」となりそうなものですが、ここでもなぜか「イヤン」とfの音が「ハ行」として取り入れられています。

なにわTube動画 2024年8月6日0分59秒付近より

ただ、最近では「ヘッドホン」という表記とは別に「ヘッドフォン」という表記も見かける気がしますし、そう書かれても違和感はありません。

同様に、音の大きさを表す単位の一つであるphonは、辞書で見ると「ホン/フォン」のように並記されていたりもして、これもfの音が「ホ/フォ」(ハ行/ファ行)のどちらにもなり得るという例だと言えます。

さらに、○○phoneという語であっても、最近新しく出てきた単語に関しては、「○○ホン」ではなく「○○フォン」となる例もあります。

例えば、少なくとも管理人にとって、iPhoneは「アイフォン」であって「アイン」ではありません。

もちろん、発音上「アイフォン」を早く言ったら「アイホン」っぽくなるということはあると思いますが、書くときに「アイフォン」を「アイホン」と書くと、「ヘッドフォン」を「ヘッドホン」と書いた時よりも違和感が大きいと感じます。

「ファ行」というのは現代日本語の中では外来語にのみ使われる比較的新しい部類の音であることを考えると、おそらく、fを「ハ行」で取り入れる形の方が古く、「ファ行」で取り入れる形の方が新しいように思われますので、ヘッドホンやイヤホンのような例は、昔の借用形が残った数少ない例と考えることができるのかもしれません(これを書いていて、管理人の祖父は音楽のドレミファソラシドのことをドレミハソラシドと書いていたことを思い出しました)。

これ以外にも、長音の有無(「ヘッドホン」(またはヘッドフォン)なのか「ヘッドホーン」(またはヘッドフォーン)なのか)についても興味深いところです。

例えば、『新明解国語辞典』の第4版では単語の見出しがヘッドホーン、イヤホーン(後者については、「イヤホン」という表記も併記)となっていて、これを見る限りでは伸ばす形が一般的だとされていた時期もあったようです。

あまり信頼性の高いデータとは言えません(例えば、「アイホン」でヒットするものの中にはiPhoneとは全く関係ないものが含まれているなど、正確ではない面があります)が、この点に関連して現状どういう表現がよく使われているのかを大まかに把握するための参考データとして、Yahoo検索でヒット数を調べてみると以下のようになりました。

検索語ヒット数
ヘッドホン約29,700,000件
ヘッドフォン約28,200,000件
ヘッドホーン約6,020,000件
ヘッドフォーン約737,000件
イヤホン約51,200,000件
イヤホーン約168,000件
イヤフォン約9,970,000件
イヤフォーン約467,000件
アイホン約14,500,000件
アイフォン約48,700,000件
アイホーン約112,000件
アイフォーン約1,770,000件
Yahoo検索結果(2024年9月1日午前3:30-4:00に実施)。ヒット数は、検索条件の指定はせず(初期設定の状態で)検索窓の検索語を入れたときに画面に表示されたままを記載(検索語が一般的でない場合には結果画面上部に「○○で検索しています。◆◆で再検索」のようなオプションが表示されるが、その場合は◆◆で再検索を指定して絞り込んだ値を記載)。

管理人自身の直観としては、「ヘッドホーン」(ヘッドフォーン)のように長音が入る言い方には違和感がありますが、このあたりは世代差がかなりありそうな印象で、こういった点をしっかり調べてみるのも面白そうな気がしますね(学部生の皆さん、卒論のテーマとしてどうでしょう?)。

なお、日本語のファ行の子音は、厳密にはf(無声唇歯摩擦音)ではなく両唇無声摩擦音であるɸなので、「ヘッドホン」でも「ヘッドフォン」でも英語のfの発音からはずれているという点では同じです(※子音の分類については、必要に応じて用語解説のページをご参照ください)。

hやɸの音はfに比べるとやや弱めで存在感がないので、聴覚上は「ホ」と「フォ」の違いはそこまで顕著ではありません。

「ヘッドホン/ヘッドフォン」のどちらも許容できたり、iPhoneが表記上は「アイフォン」だとしても発音上「アイホン」に近くなってもそこまで違和感が無いのは、音が互いに似ていてはっきりしか区別が付きにくいことが一因だと思われます。


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