なにわTube【2022年7月26日】感想文:逆再生について

2022年7月26日付のなにわTubeの動画「なにわ男子【㊗️みっちー20歳】逆再生動画を作ってみたら天最高!」では、誕生日を迎える道枝氏のお祝いとして逆再生動画(厳密には、逆再生した際に普通の録画のように見えるようにするため、動作やセリフの時系列を逆にした状態で録画して作成する動画)を作成するという内容でした。

管理人も毎年音声学の授業で逆から再生した音声を利用したクイズを出題したりしているのでよくわかりますが、セリフを逆再生すると外国語のような聞こえ方になり、もとの音声が何と言っていたかを当てるのは相当難しくなります。

同様に、逆から再生した音声を聞いてそれを真似しようとしても、その通りに発音するのは音声学の訓練を受けてでもいない限り難しいもので、案の定、なにわ男子のメンバーも逆再生のセリフの発音には苦労していましたね。

なぜ、単に音が逆から再生されただけなのに、聞き取ったり発音したりするのが難しくなるのでしょうか?

今回は、この「逆再生」について、

  • 逆から再生することによって音声面で生じること
  • 逆再生動画のセリフをうまく発音するためのポイント

を中心に、音声学的な観点から2022年7月26日付動画の感想を書いてみたいと思います。

逆から再生することによって音声面で生じること

音声を逆から再生するとどうなるかについて、「まみむめも」という発音を逆から再生したと仮定して考えてみましょう。

いわゆる逆さ言葉と逆再生は違う

「まみむめも」を逆からと言うと、「もめむみま」のように考える人がいるかもしれませんが、これは日本語の逆さ言葉(トマトは上から読んでも下から読んでもトマト、など)と同様、カナ文字を単位とする発想によるものです。

実際には、逆から再生すると子音・母音の並びが逆になることになるので、逆さ言葉のようにはなりません。

カナ文字単位(逆さ言葉)子音・母音単位(逆再生)
トマト/to/ /ma/ /to/

/to/ /ma/ /to/
tomato

otamot
まみむめも/ma/ /mi/ /mu/ /me/ /mo/

/mo/ /me/ /mu/ /mi/ /ma/
mamimumemo

omemumimam

なにわTube動画の6分54秒付近で西畑氏が「一旦ローマ字にして逆さにすればいい」的なことを述べていますが、ローマ字では子音と母音が分けて書かれるので、逆再生の音声を予測するうえでは確かに有効な方法だと言えます(※ただし、カナ文字に比べれば良いという意味であって、後述するようにローマ字では不十分な点が出てきます。)。

聞き取りや発音がしにくい理由は?

逆から再生したら単に子音と母音の並びが逆になるだけなのに、なぜ外国語のように聞こえたり、逆再生の音声を真似して発音しようとしてもなかなかうまくいかないのでしょうか?

これは、逆から再生することでもとの言語(この場合、日本語)の発音のルール上存在しないような音の連続が生じてしまうためです。

例えば、「けんと」を逆再生すると仮定すると、

kento

otnek

のようになり、tnのように日本語には存在しない子音連続が生じたり、語末がkで終わってしまう(※日本語は「ん」などの例外を除き母音で終わるのが基本)など、日本語にはそもそも存在しないようなタイプの音が出てきてしまいます。

このように日本語のルールから外れてしまうので、外国語っぽく聞こえたり、真似して発音しようと思ってもしにくいということになってしまうのです。

逆再生動画のセリフをうまく発音するためのポイント

上で述べた通り、逆再生の音声には日本語のルールから外れた音が含まれてしまうので、完ぺきに真似するのは難しいものです。

実際、なにわTubeの動画で「みっちーおめでとう」というセリフを逆再生用に練習する場面でも、なかなか思い通りにいかず、改善しようとすればするほどかえって不自然になってしまうという悪循環になってしまう場面がありました。

YouTube動画としては、ちょっと不自然だったりおかしな発音になってしまうくらいの方がインパクトがあってむしろ良いということは重々承知したうえで、逆再生動画用の発音をうまくするために押さえておくべきポイントは何か考えてみたいと思います。

まずは実際の発音をもとに考える

言語の発音において、話し手が「同じ音」だと思って発音している音が、実際には状況に応じて全く別の音に変化するということが起こります。

例えば、「天丼マン」(てんどんまん)には「ん」の音が3つあり、日本人であればこの3つの「ん」の音はどれも同じ音だと認識しているはずです。

しかし、実際の発音においては、「ん」の音は直後に来る音によって発音が変わり、てんどんまんの場合は

teNdoNmaN

tendommaɴ

のように、実際には3種類の異なる「ん」が出てきます(nの発音では舌の先が上の歯の裏側~歯茎付近に付くのに対し、mの発音では舌の先は上の歯の付近には付かず、その代わりに唇が閉じ、ɴの発音ではnともmとも異なり舌の先が上の歯の付近に付くことも唇が閉じることもないはずです)。

このように、話し手は認識していないが、ある音が状況に応じて異なる音(音声学ではこれを「異音」と言います)として出てくるような場合、実際に発音される通りに記述し、それをもとに逆さまにすることで、ローマ字表記に基づくよりもさらに自然な逆再生のセリフとなります(ただし、実際の発音通りに記述するのはある程度の音声学の知識が必要となります)。

なにわTube動画で練習していた「みっちーおめでとう」を例にとると、まずは以下のように発音を考えてみることになります。

mitːʃiːomedetoː

oːtedemoiːʃtːim

なお、発音記号中の ː は長音記号で、iːならii、tːならttのように、その左側の音が長く伸びて発音されることを示します。

mitːʃiːomedetoːはmittʃiiomedetoo、oːtedemoiːʃtːimはootedemoiiʃttimのように書くこともでき、順番を入れ替える際にはこのように書いた方が分かりやすいかもしれないので、以下では長音記号を使わずに書くことにしてみます。

あとはこの通り発音するだけですが、発音する際にも注意すべき点があります。

余分な母音を入れて発音してしまわないように注意

日本語は音節(発音する際の単位)が母音で終わるのが基本(例外は「ん」や小さい「っ」)なので、日本人は本来入れてはいけない位置に母音を挿入して発音してしまいがちです(例:英語のstrict /strɪkt/ → sutorikuto)。

「みっちーおめでとう」の例で言えば、ootedemoiiʃttimの最後のmの後には本来母音がありませんが、日本語では子音mで終わることは許容されないので、解決策としてmuのように不必要な母音を入れ、日本語でも許容される構造に変えているというわけです。

また、日本語では語末がmで終わることは許されないが、「ん」で終わるのはOKなので、語末のmをmuするのとは別の解決策として、mを「ん」に置き換えて発音してしまうというものもあり得ます。

どちらの方法も一長一短で、muで発音する場合はootedemoiiʃttimの最後の音がmであるという情報を残しておけるという利点がある反面、本来ないはずの母音が入ってしまうという欠点があり、mを「ん」で置き換えてしまうと、母音ではなく子音で終わるという部分は維持することができる反面、最後の音がmであるという情報は消えてしまうことになります。

母音挿入(muとする)による解決法も「ん」と置き換えることによる解決法も利点と欠点がある以上、理屈上は優劣の差はないはずですが、「聞こえ度」という概念に基づいて考えてみると、母音は子音に比べて聞こえ度が高く目立つ音なので、ないはずのところに母音が出てきてしまうと不自然さが目立ってしまいやすく、逆再生に関してはmに母音挿入をするよりは「ん」と置き換えるほうがましになるだろうと予測できます。

実際、なにわ男子メンバーが試行錯誤する中で「おーてでもうぃーしてぃん」(5分50秒付近)のようにm →「ん」タイプで発音したときと、「(う)おーてでもうぃーすぃてぃんむ」(7分35秒付近)のようにm → muタイプで発音したときとでは、「みっちー」の部分に関して明らかに前者の方が自然に聞こえていました。

【2022年8月4日追記】音声の具体例

言葉で書いても分かりにくいかと思い、音声と例を用意してみました(※再生時は音量にご注意ください)。

・m →「ん」タイプでの発音(5分50秒付近)

・その逆再生版

・m → muタイプでの発音(7分35秒付近)

・その逆再生版

ちなみに、m → muタイプでの発音の最後のuを音声編集ソフトで削除してしまい、それを逆再生すると「みっちー」の部分は自然に聞こえます(以下に音声の例を出しておくので実際に聞いてみてください)。

・m → muタイプでの発音(7分35秒付近)の最後のuを削除した場合

・それを逆再生した場合

以上の例からも、余分な母音が入ってしまうとおかしくなってしまう(=余分な母音を入れないようにすることが重要)ということがお分かりいただけるのではないでしょうか。

なお、この最後のmの発音は「両唇鼻音」といって、唇を完全に閉じた状態で鼻から息を抜いて出すタイプの音で、唇を閉じた状態で「ん」と言うつもりで発音すれば実は簡単に出せますので、そのように発音するのがベストではあります。

さらに細かいことを言うと・・・

「みっちーおめでとう」の逆再生用発音をさらに自然にするためにポイントとなるのは、ootedemoiiʃttimの途中に出てくるʃttの部分です。

この部分はなにわTube動画の中でも「みっしー」や「みしてぃー」など、おかしな発音になってしまっていた箇所に当たります。

発音のコツとしては、ʃとtの間にiやuなどの余分な母音を挿入しないことはもちろんのこと、ʃの後のtはt2つ分の長さがあるので、舌の先を上の歯茎(「ティティティティ・・・」と繰り返し発音したときに舌の先が付く場所)にしっかりとくっつけるようにし、さらにʃの発音は、普通に発音する時よりもtに向かってクレッシェンド(だんだん強く)気味になるように意識し、かつʃからt(=舌の先を上の歯茎に付ける動作)への移行を素早く行うようにすると、より自然に聞こえるようになるでしょう。

【2022年8月4日追記】補足説明

発音のコツに関する記述が非常に分かりにくい書き方だったかもしれないのでもう少し簡単に言うと、「おーてでもうぃーしてぃん」の「し」と「てぃ」の間に促音(小さい「っ」)を入れて「てぃん」のようにすれば無意識に上記のような発音動作が行われるはずなので、それを逆再生すると自然な「みっちー」になるはずです。

なぜそのように言えるかですが、ポイントは上ですでに述べたようにootedemoiiʃttimの途中に出てくるʃttの部分をいかにうまく発音するかという点で、日本語の以下の特徴から、「しってぃん」のようにしてやると自然にこれが達成できると考えられるためです。

  • 促音は、後ろに来る子音と同じ音になる
  • 無声音に挟まれた母音i, uは無声化する

1つ目の特徴は、「カップ」「カット」「カッコ」をローマ字で書いてみれば分かるように、文字では同じ促音「っ」で書いていても、発音上はkappu, katto, kakkoのように「っ」の部分が後ろに来る音と全く同じ音になっていることが分かります。
このような感じで、「しってぃん」であれば発音上は促音がその直後の子音と同じ音になるのでʃittɴのようになります。

2つ目の特徴として、母音のi, uは条件が整うと発音しているつもりでも実際の発音上は消えてしまうというものです。
ʃittiɴの一つ目のiの音は、前にʃ、後ろにtがあり、ʃもtも無声音というタイプの音なので、このiが発音上消えてʃttiɴのようになります。

以上のような理由から、「・・・しってぃん」のように促音を入れてやれば良いという結論になるわけですが、本当にそうなるかどうか、実際に「・・・してぃん」の逆再生と「・・・しってぃん」の逆再生の聞き比べをして確認してみましょう。

まずは元の音声(・・・してぃん)から。

・元の音声「おーてでもうぃーしてぃん」(5分50秒付近)

・それを逆再生したもの

次に、音声編集ソフトでなにわ男子の元の発音(「・・・してぃん」)に促音を加えて人工的に「・・・してぃん」のように音声を改変し、それを逆再生すると以下のような音声になります。

・元の音声に人工的に促音を加えて作った音声(「・・・してぃん」)

・それを逆再生したもの

なにわ男子メンバー自身が動画の中で言っていたように、「おーてでもうぃーしてぃん」(5分50秒付近)を逆再生すると「みっしー」のような(少なくとも、「みっちー」とははっきり聞こえない)音声になってしまいますが、促音を加えて「・・・しってぃん」のように促音を入れてやるとより「みっちー」らしく聞こえるようになったはずです。

このほか、単語のアクセント(音の高低)も逆になるので、それも考慮しながらやればさらに自然に聞こえるようになります。

その他のセリフについて

「みっちーおめでとう」以外のセリフについても、基本的な流れは同じです。

感想文の締めとして、逆再生動画に出てきたセリフの発音をまとめて表記しておきます。

もし練習したい方がいれば参考にしてみてください。

参考までに付録

ごめんごめん (×2)gomeŋgomeŋŋemogŋemog
みっちーおめでとうmittʃiiomedetooootedemoiiʃttim
みんなありがとうminna arigatooootagira annim
ばいばい (×2)baibaiiabiab
※「ばいばい」は「ばいばーい」として、iaabiabとする方がより自然かもしれません

参考文献・出典

逆再生のサンプル音声は、下記の動画の中で本文中に示した区間に現れる音声を逆再生したもの。

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