今回の動画は西畑くんの誕生祝いとして72個のボケをプレゼントするという内容でした。
個人的にはなにわ男子のこういうノリが好きなので、見ていて純粋に楽しかったですが、発音についてもかなりたくさん気になる点がありました。
いくつかピックアップしてみたいと思います。
挨拶は今回もいたって平和でした。
締めのあいさつについては、連続記録をさらに更新しました。
おそらく録音場所の関係だろうと思いますが、今回のあいさつは残響が少な目で、BGMの音量も小さめなので、波形が普段よりもはっきり見えやすく分析しやすそうな感じがします(「どうも」の出だしが効果音や「ちゅきちゅきー」の末尾の音声と被っていない点なども、とてもありがたいです)。
このサイト内ではこれまでに何度も登場している無声化ですが、今回は子音の無声化と母音の無声化が両方出てきていたので、再度取り上げてみようと思います。
西畑くんの発言として「誕生日おめでとう 大吾に72個のボケプレゼント」というのが1分19秒付近と2分49秒付近に2回登場しますが、このうち2分49秒付近の方について、「大吾」の発音が「たいご」っぽくなっていました。
「だいご」に聞こえる大吾
「たいご」っぽく聞こえる大吾
ここではdがtに変化しているわけですが、子音の分類上、dは有声歯茎閉鎖音でtが無声歯茎閉鎖音なので、有声が無声に変化した、つまり無声化したということになります。(※厳密に言うと、典型的なt(tの閉鎖の開放の後、若干のタイムラグ(hのような音が出る区間)があってから後続母音の声帯振動が始まる)になっているわけではなくて、無声の無気音(hのような音が出る区間が無く、tの閉鎖の開放とほぼ同時に後続の母音の声帯振動が始まる音)になっているような感じなので、人によってtに聞こえる場合もあればdに聞こえる人もいるかもしれませんが・・・)
参考までに、どの子音がどのような分類になるかについては、以下のページに簡単な説明がありますので気になる方はどうぞ。
用語解説:子音の分類このような子音の無声化は、子音が発話の先頭やポーズ直後の位置、単語の先頭の位置で起こりやすいとされています。
有声音というのは声帯が非常に高速で振動することによって作られる音ですが、発話の最初というのは声帯が全く振動していない状態から始まるので、最初からフルに声帯を振動させようと思っても、なかなか難しいのです(車や電車などで、停止状態から最高速度に一気に持っていこうとしても無理で、最高速度に達するまでには多少の時間が必要になります。それと同じような感覚です)。
というわけで、本来であれば声帯が充分に振動するはずの音が、出だしのもたつきによって声帯が振動しない状態で発音されるということになります(これは日本語に限りません。例えば、韓国語の「平音」と呼ばれるタイプの音は、単語の先頭にあるときには無声音([p] [t] [k]など)で発音されるのに、単語の途中に出てくると有声音([b] [d] [g]など)で発音されますが、これも上記の生理的な制約に根差すものであると解釈できます)。
今回の「大吾」のdは単語の先頭にあり、しかも直前にポーズが置かれている状態なので、無声化してもおかしくない条件になっていて、結果的にtのようになってしまったと考えられます。
逆に、通常の自己紹介(「どうも、なにわ男子の西畑大吾です!」)のときのように、「にしはただいご」と一息で発音する場合であれば、「だ」のdはポーズの直後ではなく、単語の途中に置かれる状態になるので、無声化が起こる可能性は極めて低くなるでしょう(このような場合、むしろ単語の途中のtがdっぽくなってしまう(声帯の振動を留めなければならないのに、前後に母音(=声帯の振動あり)があるので、完全に声帯の振動を止めきれない)というパターンが生じやすくなります)。
ちなみに、声帯振動の有無(有声/無声)はある・ないと完全にはっきり分かれるわけではなく、連続的なものなので、実際には有声と無声の中間的な音声がいくつも存在します。
ただし、我々が発音を聞いて有声か無声かを判断する際には、声帯振動の有無以外にも様々な要素を手掛かりとして総合的に判断を行うので、中間的な音声だから有声とも無声とも判断できないというようなことにはなりません。
こちらは長尾くんが考えたボケの中に出てきた「葉加瀬太郎さん」という発言に関するものです。
この中の「はかせ」という部分の発音が、「はくせ」っぽく聞こえます。
これは、本来であればhakaseという発音になるはずのところ、kaのaが無声化してしまったことによって生じたものと考えられます。
通常、母音が無声化するとhに似た音が残るので、その音色から無声化する前の母音が何であったかが認識できるのですが、hの音というのは非常に弱い音なので(しかも、ここでの長尾くんの発音はかなり早口で言っていて、ゆっくり丁寧に発音した時と比べてhの音がよりはっきりしない状態になっている可能性が高いので)、今回の動画のように周りでみんながざわざわとしている環境では、hが脱落して(=聞こえなくなって)しまいがちです。
結果として、hakase → hakhse → hakseのようになったのではないかと思われます。
なお、日本語では母音の無声化が起こりやすいのはi, uで、aはなかなか無声化や脱落を起こしにくいので、今回の「はかせ」→「はくせ」は比較的レアな音声変化の例となります。
参考までに、母音の無声化については以下のページに簡単な説明があります。
用語解説:母音の無声化