西畑くん主演の「忌怪島/きかいじま」の公開が近いということで、今回はメンバーがお化けのコスプレをしながら試写会をするという内容でした。
今回も発音面で気になった点を挙げてみます。
今回は冒頭・締めのあいさつともにありましたが、冒頭あいさつがすべて西畑くん単独で行われていました。
冒頭あいさつのうち「せーの」「どうも」は基本的に西畑くんのみが発言することがデフォルトになっていますが、「ちゅきちゅきー」「なにわ男子でーす」のパートまで一人でというのは(少なくともなにわTubeの中では)初めてのことです。
印象的だったのは、「せーの」「ちゅきちゅきー」「どうも」「なにわ男子でーす」の4パートの中で「どうも」の部分が最も声が高くなっていたことと、「なにわ男子でーす」の「でー」が後の方に行くほど(ごくわずかにではありますが)声が高くなっていたことですね(普段は「ちゅきちゅきー」「なにわ男子でーす」が7人全員での合唱のようになっているので判別不明だった)。
毎回同じようになるのか、もしまた西畑くんがすべてのパートを一人で言う回が出てきたら確認してみようと思います。
子音というのは口の中のどこかが狭くなる(息の流れを妨げる)ことによって作られるのに対し、母音は口を狭めない(息の流れを妨げない)ことで作られます。
ゆっくり丁寧に発音するような場合であれば、口を狭める(子音を出すための動作)も口を開く(母音を出すための動作)もしっかりと行われますが、早口になるにつれて一つ一つの動作をしっかりとする時間が取れず、ある音を出すための動作が中途半端な状態で次の音の動作に移ってしまうような状況が起こりやすくなってきます。
こうした発音の緩みは語頭(単語の先頭の部分)では起こりにくいのに対して、語中(単語の先頭以外)で起こりやすいことが知られていて、同じ子音であっても単語の位置によって発音が大きく変わってしまうみたいなことがしばしば起こります。
例えば、bの音は「閉鎖音」のグループの音なので、丁寧にはっきりと発音する場合には唇が完全に閉じ、次の母音が発音される直前まで口を閉じて力を貯めてから瞬間的に唇を開放するようにして音が出されますが、早口で単語の途中に出てくるb(わらびもち、あぶらあげ、アベノミクス、ロボットなど)を発音すると、唇が完全に閉じない状態(摩擦音のような状態)で発音されがちです。(※「閉鎖音」や「摩擦音」などの子音分類については、用語解説のページを用意していますので詳しく知りたい方はご参照ください。)
場合によっては、wのような音に近くなったりするかもしれません(実際、早口で言う場合であれば「わらびもち」を「わらうぃもち」といったり、「ロボット」を「ロウォット」のように発音しても違和感がなかったりします)。
似たような現象はbに限らずdやgでも(その他、p, t, kでも)よく起こりますが、こうした現象を閉鎖音の摩擦音化(spirantization)と呼んだり、より広い意味の現象として「弱化」(lenition)という括りでまとめる場合もあります。
英語を勉強したことのある日本人なら、同じ / t / であっても英語(特に、アメリカ英語)のネイティブスピーカーが発音するtopの / t / とwaterの / t / は発音が違うと感じたことがあるのではないかと思いますが、これも弱化現象の一種だと解釈できます(つまり、子音の弱化は日本語のbの発音に限ったことではないということですね)。
さて、今回の動画では「おばけ」という単語が何度も出てきましたが、この「おばけ」のbの音が弱化を起こし、読まれるたびに異なる音で出てきていました。
弱化については以前も取り上げたことがあったと思いますが、いつのことだったかはっきり覚えていないので、今回改めて取り上げることにします。
今回の動画では、「おばけ」という単語が15回程度出てきていたかと思いますが(動画冒頭のダイジェスト版の部分や、同じシーンが繰り返し使われている部分は除く)、同一人物の発音の方が聞き比べて違いが分かりやすいと思われるので西畑くんが発音した「おばけ」に限定し、かつ、他のメンバーの声と重なってはっきり聞こえないような部分は除いたものを例として以下に挙げます。
全部で西畑くんが発音した12の「おばけ」がありますが、それぞれbの部分の発音に意識を向けて聞いてみると、はっきりと「おばけ」と聞こえる音もあれば、bが弱化して「おわけ」に近いような発音になっているもの、「おばけ」と「おわけ」の中間くらいに聞こえるものなど、同じbの音でも様々なバリエーションで発音されている(つまり、同一人物の発音であっても、状況によってbの弱化の程度が異なる)ことがお分かりいただけるかと思います。
(※ちなみに、子音の弱化は日本語に限らず様々な言語で起こる現象なので、西畑くんの滑舌が悪いとかそういう話ではありませんので念のため。あくまで、言語一般によく見られる現象が西畑くんの発音にも表れていたということです。)
おばけ1
おばけ2
おばけ3
おばけ4
おばけ5
おばけ6
おばけ7
おばけ8
おばけ9
おばけ10
おばけ11
おばけ12
さて、「bの発音に意識を向けて聞く」という状況であれば上で挙げたbの微妙な音色の違いに気付くことができると思いますが、何も言われなければ全く気付かない人の方が多いくらいかもしれません。
なぜこういった発音の変化に気づきにくいのかですが、実は、人間の音知覚(音の聞き取り)には「語頭の音の違いには敏感だが語中の音の違いには鈍感」という特徴があるので、発音する側が語中の子音を緩んだ状態で発音しても、聞く側も語中については鈍感になっているのでスルーされてしまうことが多いのです。
ちなみに、語内の位置(語頭・語中)によって聞き手側の敏感さが異なることは、実験で簡単に確かめることができます。
以下の音声は、上で挙げた12個の「おばけ」の音声から「お」と「け」を取り除いて「ば」だけの状態にしてしまったものです(おばけ1~おばけ12の順に「ば」の部分だけを並べています)。
「ば」だけの状態にした音声を聞くということは、もともと語中にあったbを強制的に語頭の位置に置いた状態で聞いていることになりますが、語中にあるb(「おばけ」)の時と比べて、強制的に語頭の位置に置かれたbは聞こえ方に変化があるでしょうか?(bの発音は音響的に完全に同一のものなので、もし聞こえ方に変化があるのならば、語頭・語中という語内の位置が聞こえ方に影響するということになりますね。)
上で挙げたおばけ1~おばけ12の音声を「ば」のみにしたもの
感じ方には個人差があるでしょうが、bが語中にある(「おばけ」のとき)よりもbを語頭に移動させた(「ば」だけになった)場合の方が、「わ」のような曖昧な(少なくとも、はっきりした「ば」っぽくない)音に聞こえる頻度が上がったのではないかと思います。
本来、語頭の位置では聞き手の求める基準が厳しく、はっきりとした(緩んでいない)発音でないと許されないところ、語中で発音が緩んだ状態の「ば」を強制的に語頭の位置に持ってきても厳しい評価基準に耐えられず、ちゃんとした「ば」には聞こえないという判断になりやすいということです。
本文中で取り上げたメンバーの発言や音声・図はすべて下記の動画の該当部分(具体的な個所は本文中に明記)から引用したもの。