なにわTube【2022年9月13日】感想文

2022年9月13日の動画は、前回・前々回に引き続き広島での動画でした。

続き物の動画ということで、やはり冒頭でのあいさつも締めのあいさつもなかったですが、音声学的に非常に興味深いポイントがあったり、相変わらずなにわ男子のワードセンスが光っているなと思えた部分があったりしたので、メモ代わりに残しておきたいと思います。


連声しない「観音」

1分43秒付近:観音バッティングセンター

バッティングセンターでのリベンジ企画の会場となったのが「観音バッティングセンター」ですが、長尾くんが「かんおんバッティングセンター」と紹介していて、これが個人的に今回の動画の中でも一番驚いた点です。

観音は漢字単独では「かん」+「おん」という構造ですが、2つが合わさって「観音」となると連声(れんじょう)を起こして「かんのん」となるのが一般的だと言えるでしょう(※連声についてはいずれ解説のページを設けようと考えています)。

なので、最初に動画を見たときは、長尾くんが連声のことを知らず、「かんのん」と読むべきところを「かんおん」と読み間違ったのだばかり思っていました。

ただし、漢字の読み方(特に、地名や人名)についてはびっくりするような(※一般的な読み方とは違った独特な、という意図です)ものも結構あるので、感想文のネタの一つとしてこうして「観音」のことを書くにあたって、念のために「観音バッティングセンター」の正式な読み方を確認しておこうとネットで検索してみました。

「観音バッティングセンター 読み方」とかではヒットしないものの、当バッティングセンターを紹介しているページのURLの表示が kannon ではなく kanon となっていたり、住所である広島県広島市西区南観音の読み方を調べると「みなみかんおん」と出てくるので、むしろ「かんおん」が正しい可能性の方が高そうだということに気づき、安易に読み間違いだと決めつけて動画を見てしまっていたことを反省しました(よく考えてみれば、過去のなにわTubeの動画のパターン的に読み間違いがあればテロップが入りそうなものだし、長尾くんはなにわ男子メンバーの中では読み間違いが少ない方だという印象も持っていたので、「かんのん」以外の読み方である可能性にもっと早く気付くべきところでした)。

連声しない読み方があることを知れたという点でとても勉強になりましたし、常識を疑ってみることの重要さ(これは研究者に求められる姿勢でもあります)に気づかせてもらえたので、動画を見てよかったなと思いました(単なるアイドルのエンタメ系動画のように見せかけてこのような教育的な要素も盛り込まれているとは、なにわTube恐るべしですね)。


数字のアクセント

1分15秒付近 & 2分44秒付近:90、100、110、120、130

関西方言は東京方言(いわゆる標準語)よりも複雑なアクセント体系を持っていて、関西方言ネイティブ以外の人がマスターするのはかなり難しいです。

一応、関西方言のアクセントの大まかな特徴については知っていますが、なにわ男子の発音の分析をするようになってから、もっとしっかり勉強しようと思うようになり、専門書を読みながら頑張っているところです(アクセントの体系ついては理解できても単語のアクセント型を覚えきれないので、結局のところどの単語がどのような音調で読まれるかを予測するのが難しく、正直言ってマスターできる気はしませんが・・・)。

そんな背景もあり、なにわTubeの動画を見る時間は筆者にとって関西方言アクセントの勉強の時間でもあります。

今回の動画の中でさすが関西弁のネイティブスピーカー!と感動したのが、企画の説明の中で長尾くんが上記の数字を読み上げていく場面でした。

数字を読み上げている部分の音声(なにわTube動画 2022年9月13日1分15秒付近) ※再生時は音量にご注意ください

長尾くんの90から130までの数字の読み方は以下にまとめた通りで、当然標準語での読み方(だと管理人が思っているもの)とはかなり違うんですが、これと中井幸比古(編著)『京阪式アクセント辞典』に記載されている数字のアクセントのパターンを比較してみたところ、完全に一致していたのです(管理人は大学卒業後、6年ほど関西に住んでいたことがあり、「こてこての関西弁」というのにそこそこ触れた経験があるのですが、そんな自分が関西弁らしさを最も強く感じるメンバーが長尾くんで、長尾くん推しになったのもそれが理由でした。今回伝統的な関西弁での数字のアクセントを調べてみたことで、なぜそのように感じたのかが分かったような気がしました)。

標準語での発音長尾くんの発音中井(2002)での記述
きゅうじゅうきゅうじゅうきゅうじゅう
ひゃひゃひゃ
ひゃくじゅひゃくじゅうひゃくじゅ
ひゃくにじゅひゃくにじゅうひゃくにじゅう
ひゃくさんじゅうひゃくじゅうひゃくじゅう
※下線部なし太字の部分が「高」、下線部ありが「低」を表している。110は関西弁では低起無核なので単独では最後の「う」が高くなるが、高起式の数字を続けて言ったためにピッチ上昇が消えたもの(中井(2002: 15)の「高起式文節後続による低平」)であり、伝統的なパターンと一致していると判断できる。

ところで、長尾くんは関西出身なのだから関西弁のアクセントと一致して当然だろうと思われるかもしれませんが、関西弁に限らず日本の諸方言において「標準語化」が進んでいて、若年層が伝統的な方言の特徴を失っているケースも多々あるので、これは結構すごいことなのです。

例えば、なにわ男子のメンバーの中でも藤原氏はトークの持っていきかたからツッコミの仕方までいかにもなにわ感が強いイメージがあると思いますが、アクセントの面では東京と関西の中間的なパターン(例:「ひゃくさんじゅう」・・・「ひゃ」が高という点では関西タイプだが「さ」の後で下がる点では東京タイプ)になっていたり、同じ単語でも言う度にゆれが生じていたりして、意外なことですが純粋な関西弁とは言えない面が見受けられます(デビューして東京に進出したことによる影響もゼロではないと思いますが、特に若年層の間で関西弁そのものの変化が起きていることの方が大きいのではないかと見ています)。

グループ最年長(方言研究では20代でもピチピチの「若年」扱いとなりますが・・・)の藤原氏ですらそうなので、より若い長尾くんはもっと標準語っぽくなっていてもおかしくないところですが、管理人が見るところ、長尾くんはグループ最年少ながらアクセントに関してはなにわ男子の中では極めて保守的(関西弁らしさが維持されている)と言えそうな感じがします。

今回の動画内で言うと西畑くん、大橋くんもかなり保守的な方でしたが、それ以外のメンバーの発音については個人差はありますが伝統的な関西弁のパターンとは異なる言い方をしているケースが多かったようです(デビューして東京に進出したことによる影響もゼロではないと思いますが、特に若年層の間で関西弁そのものの変化が起きていることの方が大きいのではないかと見ています。関西と言っても広いので、関西の中の出身地域による違いもあるかもしれません)。

管理人は若年層における方言の発音変化についても研究していて、伝統的な関西弁でのアクセントであるとされる発音となにわ男子のメンバーの発音がどの程度一致するか(そして、その一致度が今後さらに変化していくのかどうか、etc.)を見ることは個人的に楽しいだけでなく、学問的にも重要な知見をもたらしてくれそうな気がするので、今後はアクセントの面でもなにわ男子に注目していきたいところです。


メトニミー?シネクドキ?それともただの言い間違い?

3分27秒付近:お米耕してます

大橋くんの見た目(首へのタオルの巻き方など)が農作業をする人の恰好に似ているといじられている場面で、「(農作業で)何を採ってるんですか?」という振りに対して答えたセリフがこれです。

田んぼや畑を耕すのは理解できますが、お米は耕せるのか?とちょっと引っかかったので、音声学とは違う話題になりますが少し考えてみました。

一番単純な解釈は、急に話を振られたので考える間がなく、とっさに使った単語がいまいち文脈に合っていなかっただけだというものになるでしょうか。

一方、言語学的に見ると、比喩の一種として「鍋を食べる」(食べるのは鍋そのものではなく、その中身)とか「ペットボトルを飲む」(飲むのはペットボトルそのものではなく、その中身)のようなメトニミー(隣接性・近接性に基づく比喩)の表現があったり、「お茶でも飲みに行く」(「お茶」に限定せず、お茶を含めた飲み物全般を指す)のようなシネクドキ(一部分を用いて全体を表す)のような表現があったりするので、そういったものを用いた高度な比喩表現だったという可能性が考えられるかな、とも思いました。

例えば、耕した結果出来上がるのがお米なので、時間的な近接性に基づくメトニミー(?)とか、「お米」によって米が植えられている田んぼ全体を指すシネクドキ(?)であるという解釈ができるかもしれません(管理人は認知言語学とか比喩関係の分析には詳しくないので、用語の使い方や解釈が間違っていたらすみません)。

結局、大橋君がどういう意図で言っていたのかは本人にしかわからないですが、いつもながら斬新なワードセンスで言語学のことを考えさせるネタをくれて、とてもありがたいですね。


その他

おなじみの「無声化するはずのところでしない」とか、その他いろいろな発音に関する現象が出てきていましたが、これまでに何度も出てきているパターンも多いので省略します。


参考文献・出典

本文中で取り上げたメンバーの発言、音声等はすべて下記の動画の該当部分(具体的な個所は本文中に明記)から引用したもの。

関西方言のアクセントに関する文献

  • 中井幸比古編著(2002)『京阪系アクセント辞典』勉誠出版.

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