前回に引き続き広島の旅の第4回目の動画ということで、今回もあいさつはありませんでした(おそらく次回もなさそう)。
今回に限ったことでは無いですが、屋外でのロケということで音声面もはっきりしない部分が多く、細かい音のことをあれこれ言うことが難しい感じなので、そういう状況でも比較的聞いて判断しやすいアクセントを中心に扱ってみようかと思います。
ちなみに、ものすごくどうでもいいことですが、広島7人旅の動画は今回で第4回目ですが、第1回目~第3回目までは7人旅(数字の7が全角)だったのに対して第4回目だけ7人旅(数字の7が半角)になっていて、第5回目がどちらになるかがとても気になっています(動画タイトル自体が「108のボケを突っ込め…なんでやねん」なので、あえて半角にして視聴者に突っ込ませようとする意図だったのでしょうか?)。
関西弁ノンネイティブが関西弁アクセントのことを理解しようとする際に役立つと思われるポイントを、今回の動画に出てきた音声を例に挙げながら紹介してみようと思います。
ただ、アクセントと言っても対象が広くなりすぎてしまうので、前回の動画に関する感想の中でも取り上げた「数字のアクセント」に絞って、関西弁のアクセントの特徴をらしさが強く感じられる(標準語とは明らかに異なる)アクセントの単語をいくつか取り上げることにします。
(※本当は、伝統的な(辞書に載っている)型となにわ男子メンバー(若年層代表)の発音した型が同じかどうかを調べてみて、メンバーの関西弁を正確に言えている度合いを見てみようかと思ったんですが、調べたい単語が辞書に記載されていなかったり、分析対象としてふさわしくない可能性があるものが入っていたり(笑いながら発音していて本来のアクセント型として実現していない可能性がある、など)して、すんなりとはいかなかったので今回は諦めました。)
関西弁のアクセントの特徴
関西弁ノンネイティブが関西弁アクセントのことを理解しようとする際に役立つと思われるポイントを、今回の動画に出てきた音声を例に挙げながら紹介していきます。
なお、前回たまたま「数字のアクセント」の話が出ていたので、今回取り上げる例は数字に関連するものに絞っています。
東京をはじめとするいわゆる標準語のアクセントを考えるうえでは、その単語に音の下がり目が生じるかどうか(加えて、下がり目が生じる場合は、語内のどこで下がり目があるか)が重要です。
標準語では以下のようなルールがあるので、音の下がり目の有無と位置がわかればその単語がどのような音調で発音されるかが分かります。
- 1拍目と2拍目の高さが異なる
➡ 高い拍を●で、低い拍を○で表すと、●○○○や○●●●はOKだが、○○●●や●はダメ(※2拍目が長音や撥音(ん)、二重母音の場合には本来○である1拍目が例外的に●になることができ、●●●○のようなパターンも許される) - 下がり目以降、その単語内では二度と高くならない
➡ ●○○○や○●○○、○●●○、○●●●はOKだが、●○●●や○●○●のようなパターンは×
下がり目の有無と位置が重要である点は関西弁のアクセントも同じですが、関西弁の場合、1拍目と2拍目の高さが異なる必要はなく、代わりに単語ごとに最初が高く始まるか低く始まるかが定められています(これを「式」と言い、出だしから高く始まる「高起式」の単語と、出だしが低い「低起式」の単語があります)。
下がり目以降、その単語内では二度と高くならない点では関西弁も標準語と同じで、最初が高く始まる高起式の語の場合はずっと高い音調が続いて下がり目があればそこで下がる(●○○○や●●○○、●●●○、●●●●など)、最初が低く始まる低起式の語の場合はずっと低い音調が続いた後、下がり目があればその直前で一度高く上がって下がり目で下がる(○●○○、○○●○など。下がり目がない場合、最終拍で上がり○○○●)という音調となります。
式の区別があることにより、生じうるアクセントの型の数が標準語よりも多くなる(=どの単語がどのタイプなのかを覚えていかなければならない)ので、関西弁ノンネイティブにとってのハードルになります(管理人も最近になって専門書を参照しながら本格的に勉強を始めましたが、覚えきれそうにないです)。
この点は関西弁に限ったことでは無く、標準語等でも生じることですが、関西弁の場合、後ろに来る要素次第でもともと高起式の単語が低起式になったり、その逆があったりするので、そもそものアクセント型のバリエーションが多いことと相まって、とても複雑です(母音の数が少ない日本語を母語とする我々が、母音の数が日本語よりずっと多い英語を学ぶ際、母音をマスターするのは難しいと感じますが、アクセントについてもこれと似ていて、よりルール的に単純な東京タイプの方言の母語話者が、より複雑なルールの体系を持つ関西弁アクセントをマスターするのは相当難しいということになりますね)。
数字を例に、いくつかパターンを見てみましょう(※管理人は関西弁ネイティブではないので、ここでのアクセント型の根拠はすべて中井幸比古 編著『京阪系アクセント辞典』によるものです)。
関西弁での数字のアクセントは、数字単独だと2以外は高起式になっていて、下がり目があるのは1, 4 (よん), 6, 7, 8, 9 (きゅー) となっています。
ところが、後ろに月(がつ)が付くと、もともと低起式だった2が高起式に、もともと高起式だった3が低起式になったり、数字単独では下がり目がなかったものにも下がり目が生じたりしています(下がり目の位置は数字によってまちまち)。
また、キロ(kmのこと)のように、すべての数字が同じパターン(低起式でキロのキだけ高い)になるような数詞もあります(関西弁ノンネイティブからすると、こちらのパターンの方が覚えやすいですね)。
1 | いち | いちがつ | いちきろ |
2 | にー | にがつ | にきろ |
3 | さん | さんがつ | さんきろ |
4 | よん・しー | しがつ | よんきろ |
5 | ごー | ごがつ | ごきろ |
6 | ろく | ろくがつ | ろっきろ |
7 | なな・しち | しちがつ | ななきろ |
8 | はち | はちがつ | はちきろ |
9 | きゅー・くー | くがつ | きゅーきろ |
さて、今回の動画の中で、たまたま3キロ、9キロという表現が出てきていたので、それらがどのように発音されていたのかを確認してみましょう。
音声を聞いて分かる通り、3キロ、9キロともに「さんきろ」「きゅーきろ」と辞書で記述されている通りの発音になっていました。
標準語の人がこれらの発音を聞くととても関西弁っぽい独特の音調に聞こえるはずですが、その理由は、このように低い音調が2拍目以降も続く低起式の語が標準語には存在しないためです。
動画の中で、「8月」と「12月」の発音も出てきていました(※12の発音は↑の表には無いですが、辞書では「じゅうにー」「じゅうにがつ」とされています)。
こちらも聞いて確認してみましょう。
「8月」については、「つ」の母音uが無声化しているせいで「つ」が高いのか低いのかを判断するのが困難ですが、少なくとも「はちが」までは高いので、この点では辞書の記述(はちがつ)と矛盾していません。
ただし、辞書の記述では出だしが高く始まることになっているのに対し、藤原氏の発音では「はちが・・・」のように低く始まる形となっていて、この点では辞書の記述と一致していません。
標準語では「はちがつ」なので、標準語の影響を受けて発音の変化が起こっているのでしょうが、「3キロ」や「9キロ」は標準語の影響を受けずに辞書通り発音されていたのに、「8月」は辞書の記述とずれていたのはなぜでしょうか?
推測ですが、「~キロ」は前に来る数字が何であっても「・・キロ」のように「キ」だけが高いパターンになるという比較的単純なルールであるのに対し、「~月」は上の表で見た通り前に来る数字によってアクセントのパターンが大きく変わる複雑な体系であるので、関西弁のネイティブにとっても「~月」のアクセントパターンを完全に把握するのが難しく、結果的に不安定になりがちなのかもしれません。
一方、「12月」の方は長尾くんによる発音で、「じゅーにがつ」となっていました。
下がり具合が弱めなので、人によっては「じゅーにがつ」っぽく聞こえるかもしれませんが、辞書には「じゅーにがつ」以外に「じゅーにがつ」という発音もあると書かれているので、辞書の記述と一致していると言えるでしょう(なお、標準語では12月は平板型で最後まで高いまま終わるパターンになります)。
言語は変化していくものなので、それを良いと捉えるか悪いと捉えるかは別として、同じ〇〇弁と呼ばれる方言でも地域や世代によっても違いが出てきます。
特に、最近(と言っても数十年単位ですけど…)はメディアや言語接触(転勤等による人口の流出入)の影響等で標準語化が進んでいるとも言われていて、伝統的な方言とは異なる(ただし完全に標準語化しているわけではなく、伝統的なパターンと標準語のパターンの中間的な)パターンを示す若者も多いとされています。
グループ名からして「関西」を前面に押し出しているなにわ男子のメンバーでさえ、標準語のアクセントでないことは明白だが式の区別が若干曖昧になっているような発音をしたり、同じ単語なのに言う度にアクセントが違っていたりするケースがあります。
今回の動画で、同じ単語(「7人」)を異なる式で発音していた場面がたまたま出てきたので、実例を紹介しておきます。
1つ目の「7人」は「ななにん」のように最初が高く始まる高起式で発音されていたのに対し、2つ目の「7人」は「ななにん」と低起式(ちょうど、標準語と全く同じパターン)で発音されていて、同一人物の中でも揺れが生じていることが分かります。
ちなみに、伝統的な関西弁ではおそらく「ななにん」となります(「おそらく」というのは、辞書に「ろくにん」「はちにん」はあるのに7人が「しちにん」となっていて、「ななにん」は記述されていないためです。アクセントの全体的にデータを見ていくと、7と8は同じ振る舞いをするようなので、「ななにん」になるであろうと推測しました)。
関西弁がどのくらい安定して保持されているかについてはグループメンバー間でもかなりの個人差があるように感じられるので、特定の語彙に注目してメンバー間比較をしてみたり、将来的に(5年・10年単位くらいで)デビュー後の東京生活の中で誰が最も一番関西弁を保持し続けるか?みたいなことを見ていくのも面白い(言語変化のメカニズムを探る研究のテーマとしてもなかなか興味深い)なと思っています。
方言の研究で言われていることですが、ある方言の伝統的な特徴が失われていく過程において、失われやすい部分と失われにくい部分があり、失われにくい部分というのはその方言にとってコアな特徴だと考えられるので、なにわ男子のアクセント等の分析によってそういった面での知見が得られるのであれば、言語学的にも非常に意義のあることだと言えます。
藤原氏から高橋くんに出題された問題で、「パン」を発音良く英語でというものがありました。
藤原氏としては、パンの英訳であるbreadを良い発音で言わせたかったようですが、高橋くんは「パン」を [ pə̃ ] のような風変りな発音してツッコミを引き出していました。
恐らく、出題者・回答者ともに特に深く考えてやっていたわけではないのでしょうが、この問題と答えのやり取りには音声学的に色々と面白い観点が含まれて、色々と考えさせられました。
「発音が良い」の定義自体、英語教育の分野では意見が割れそうなところですが、とりあえずは英語のネイティブスピーカーのように発音できるということだと仮定したとき、高橋くんがやったように「パン」という音そのものを英語らしく発音するにはどうすべきでしょうか?
長めの文であれば何となく雰囲気で乗り切れるかもしれませんが、音がp, a, nの3つしかない中で英語らしく発音しようとしてもなかなか難しそうです。
こういう場合、英語の発音に関する知識だけではなく、日本語の発音に関する知識も必要となってきて、その2つを踏まえて「日本語の発音にない英語の特徴は何か?」を考えなければいけません。
そういった視点からpanを英語らしく発音する方法を考えてみると、以下のようなことを意識しながらやると良いのではないでしょうか。
- pの発音で息をしっかり吐いて気息を強く出す(日本語のpは息が弱いのに対し、英語のpは息がしっかり吐きだされる)
- 母音を日本語のa以外の母音(日本語にない音価のもの)に変え、母音自体も日本語の「パン」よりも長めに出す(強勢アクセントの影響で、英語だと母音が長めになる)
- nを調音点を強調して出す、口腔の閉鎖の開放を行う(英語の場合、丁寧で大げさな発音だとペンヌと聞こえるくらい閉鎖をはっきり開放させる場合があるので、それを再現する)
その他
上で紹介した以外にもいろいろな数字のアクセントが出てきていたり、厳島神社が無声化していないとか、「さ入れ言葉」(乗させろ)とか、他にも色々と取り上げたいことはありますが、長くなってきたので今回はこの辺で終わりにします。
本文中で取り上げたメンバーの発言や音声・図はすべて下記の動画の該当部分(具体的な個所は本文中に明記)から引用したもの。
関西方言のアクセントに関する文献
- 中井幸比古編著(2002)『京阪系アクセント辞典』勉誠出版.