今回のなにわTube動画は大西くんの相関図を作るという内容でしたが、ここ最近の動画の中でも最も録音状況(音質)が良い感じだったので、内容そのものよりも発音に気を取られがちでした。
さて、珍しいことに(?)、今回は細かい発音の面ではそれほど気になったところはありませんでしたが、語形成に関係する現象がいくつかまとまって出てきていたのでそれを簡単にまとめてみます。
冒頭・締めのあいさつに関しては、今回は冒頭あいさつはあったものの締めのあいさつはありませんでした。
なかなか締めのあいさつのサンプル数が増えませんが、そこは気長にいくつもりです。
冒頭のあいさつ中の「どうも~」については他のメンバーの声と被ってしまっていてやや曖昧なところはありますが、「新型」の発音であるという印象を受けました。
今回は「相関図を作る」というテーマだけあって人物名が多く出てきていましたが、大西くんがその人たちの名前を呼ぶ際に色々な形の愛称が出てきていました。
目立ったところを以下に挙げてみます。
- 佐田一眞(さだかずま) → かんかん (5分17秒付近)
- 浮所飛貴(うきしょひだか) → ひだちゃん (8分28秒付近)
- 藤井直樹(ふじいなおき) → なーくん (8分50秒付近)
- 草間リチャード敬太(くさまりちゃーどけいた) → リチャくん (9分22秒付近)
- 小瀧望(こたきのぞみ) → のんちゃん (10分39秒付近)
- 重岡大毅(しげおかだいき) → しげさん (10分40秒付近)
日本語の愛称については、元の名前の前部要素(姓)もしくは後部要素(名)の2モーラを抜き出して作られるのが典型的なパターンの一つです(例:さわだ → さわちゃん; けんと → けんちゃん; じょういちろう → じょうくん)。
動画に出てきた名称にもこうしたパターン(「しげおか → しげさん」や「ひだか → ひだちゃん」など)が多く見られましたが、「なおき → なーくん」のように元の名前から1モーラ取って「2モーラ+くん」という愛称を作り出すなど、典型的なルールを少しアレンジしているのかなと思われるようなパターンも見受けられます。
管理人自身の感覚で言えば、「なおき」であれば「なおくん」くらいしか思い浮かばないですが、「なーくん」というのが大西くんだけが使っている特殊な呼び方なのか、それとも若い人全体がそういう愛称の付け方をするようになっているのかがはっきり分からないので、このあたりは若い人たちがどのような感覚なのかを聞いてみたいところです。
語形成については、時代ごとにどんどん新しい単語が作られていて、「これまでにまだ分析されていないテーマ」という観点から卒論のテーマの一つとして有望かと思います(若い人(高校生~大学生くらい)の方がそうした新語に対するアンテナの感度も良く、データ集めもしやすいでしょうし)。
愛称つながりで言うと、ジャニーズの場合グループ内でのユニット名の付いたりしますが、その名前の付け方についていろいろな法則・制約がありそう(「丈橋」は自然だが「橋丈」はちょっと違和感あり、など)なので、ジャニーズファンでかつ卒論のテーマで悩んでいる人がいれば、そういった観点から分析して見たりするのも面白いかもしれませんね。
参考:名前の分析に興味が出てきた人へ
『ネーミングの言語学』(書誌情報は↓の参考文献欄)という本で日本語・英語を中心に色々な現象を紹介してくれているので、この手の話に興味がある人は参考にしてみるといいと思います。
連濁は以前にも取り上げたことがある現象ですが、簡単に言うと単語が2つくっついて複合語になるとき、後半の単語の最初の子音に濁点が付く現象のことです(ごみ+はこ → ごみばこ)。
今回の動画だと、9分34秒付近に出てきている粗塩(あら+しお → あらじお)などが連濁の典型例にあたります。
(※連濁については用語解説ページをまだ作れていませんが、過去に連濁の話題が出てきたこともあったので参考までに↓↓↓)
なにわTube【2022年8月9日】感想文:連濁ほかすでに取り上げた連濁を再度取り上げたのは、この連濁が語の短縮と組み合わさって出てきていて面白いと思ったからです。
「恋バナ」という表現は特に若い人たちの間ではすでに定着していそうですが、元の形は「恋の話」あたりでしょうかね?
もしくは、「恋話」(こいばなし?←手持ちの辞書には載ってないですが)のような形があり、そこから出てきたのかもしれません。
仮に「恋の話」から出てきた表現だとすると、助詞の「の」や「はなし」の「し」が取れたうえで、「はなし」の「は」が連濁を起こして「ば」となったという変化が自然でしょうか(「こいのはなし → こいのばなし → こいばな」という順序だと違和感があるので)。
一方、「こいばなし」が先にあり、そこから「こいばな」が出てきたのであれば、連濁が先で短縮が後ということになります。
自分自身は「恋バナ」という表現は使わないので、これはぜひ若い世代の言語感覚を知りたいところです。
「かつさゆ締め」(かつさゆじめ)は藤原氏の発言に出てきた表現ですが、文脈から考えて「かつみ❤️さゆりで締める(締めくくる)」を短縮したものだと思われます。
前部要素(かつみ)の最初の2モーラと後部要素(さゆり)の最初の2モーラを組み合わせるというのは日本語においては非常にありふれた短縮語の作り方ですし、助詞や活用語尾を落として複合語を作ることも、その際に連濁が起こることもよくあることですが、全部まとめて「かつさゆじめ」となるとなかなかおなか一杯な感じがします。
ただ、最初に見たときはびっくりしたものの、何度か見ているうちにそれほどおかしな表現ではないような気がしてくるから不思議です(「かつさゆ締め」を構成するそれぞれの音変化のプロセス自体はどれも日本語にありふれたものなので、意外にすんなり受け入れられるのかなと)。
ちなみに、ここまで書いてから気づいたんですが、ネットで検索すると「かつさゆ」という表現は「かつさゆのボヨヨンチャンネル」のような感じでかつみ❤️さゆりの愛称としてすでにある表現のようでした。
ということは、藤原氏の中では、「かつみ❤️さゆりで締める(締めくくる)」のような表現に対して短縮・連濁をたくさん適用して一気に「かつさゆ締め」をひねり出したわけではなく、すでに存在する表現「かつさゆ」に「締め」を付けただけということだったのかもしれませんね。
その他
他にも音響分析の題材として興味深いトピックもあったんですが、それについては今度授業の中でやってもらおうかなと思うのであえて書かずにおきます。
本文中で取り上げたメンバーの発言や音声・図はすべて下記の動画の該当部分(具体的な個所は本文中に明記)から引用したもの。
名前に関する法則についてより詳しく知りたい人向けの本
- 窪薗晴夫(2008)『ネーミングの言語学』開拓社.