なにわTube【2022年10月4日】感想文

今回の動画はメンバー7人で大喜利をするというものでしたが、これまでと同様、今回も気になる発音だらけでとても見ごたえ(聴きごたえ?)のある動画でした。

気になった点をいくつかピックアップしてみたいと思います。


冒頭・締めのあいさつ

冒頭

多分世の中のほとんどの人はまったく気にしていないことだとは思いますが、今回は久しぶりに冒頭のあいさつが完全体(←「せーの」「ちゅきちゅきー」「どうも~なにわ男子です」がすべて揃っている状態)で出てきていました。

そもそも1か月以上冒頭あいさつそのものが無い状態が続いていて、その前も「せーの」の部分が欠けていたり、西畑くん以外の人が「せーの」や「どうも」の声掛けをしていたりして、なにわ男子のあいさつの経時変化の分析対象となるデータが揃って出てきたという意味では1.5カ月ぶりくらいのことなので、非常にテンションが上がりました(西畑くん以外の人が「せーの」等を言っているという点については、それ自体データとして希少だし非常に興味深くもあるんですが、同一人物が同じセリフをずっと発音し続けているという状態の方が経時変化を見るという目的からすると望ましいので、個人的には西畑くんが発音してくれるのがありがたいところなのです)。

ちなみに今回の冒頭あいさつでの「どうも」は新型の方でした。

締め

通常であれば、「以上、なにわ男子でした」が締めのあいさつとなりますが、今回は非常に特殊なケースで、締めのあいさつの各モーラを「にゃ」で置き換えた状態(例:以上 ➡ にゃにゃー)で発音されていました。

極めて珍しいケースなので希少性の高いデータではありますが、通常のあいさつとは文を構成する子音・母音がそもそも違ってしまっているので、↑で書いたのと同じ理由から経年変化を見るうえでは使いにくいのがちょっと残念なところです。

なお、この「にゃ」というのは、「なにわ男子って100万回言ったらどんな言い間違いがある?」という問いに対する大喜利の中で長尾くんが出した回答「にゃにゃにゃにゃにゃ」(※書かれた回答では「にゃ」が5個ですが発音では6回「にゃ」と言っている)にちなんでいます。


語末の長音

3分45秒付近:グランディーバーじゃないよ、グランディーバだよ

藤原氏の大喜利の回答(3分45秒付近)

↑の画像は、藤原氏が動画の中で出した大喜利の回答です。

ドラァグクイーンのナジャ・グランディーバさんのことを指しているのだと考えられますが、「グランディーバ」ではなく「グランディーバー」のように語末に余分な長音が入ってしまっています。

これは単なる藤原氏の不注意によるミスでしょうか?それとも音声学的な理由が背景にあると考えられるでしょうか?


日本語には母音の長短の区別があり(例:大麻 vs. タイマー)、長音(伸ばす音)があるかどうかによって単語の意味が変わってきますが、実は、世界中の言語を見てみると母音の長短の区別がないという言語も少なくなく、日本語を学んでいる外国人にとっては我々が思っている以上に習得が難しい音の一つです。

この長音ですが、実は、単語の中のどの位置にあるかによって聞き取りやすさが変わってきて、特に語末(発話末)にある長音は日本人にとっても区別がしにくい(≒短母音が長母音になる、もしくは長母音が短母音になっても違和感を感じにくい)場合があります。

例えば、英語のcomputerは「コンピューター」という人もいれば「コンピュータ」という人もいますが、この2つの音の違い(単語の最後に「ー」があるかどうか)はそこまで大きなものではないと感じる人が多いはずです(他にも、「カテゴリー/カテゴリ」や「学校行く/がっこ行く」など、様々な例が考えられます。)。

一方、「コンピュータ」が「コンピュタ」になったとしたらどうでしょうか?

「ー」があるかないかの違いであるという点では先ほどの「コンピューター」vs.「コンピュータ」の比較と同じですが、非語末(単語の最後ではない位置)の「ー」が無くなると非常に違和感があるはずです。

つまりは、日本人は語末では非語末の位置の場合と比べて長音の有無に対してそれほど敏感ではないということですね。

(ちなみに、これを読んで「バター」➡「バタ」のように語末の長音を無くしたら違和感が凄い例もあるじゃないか!とか、「りゅうせい(りゅーせー)」➡「りゅちぇ」のように、語末だけでなく非語末でも長音が取れている例があるじゃないか!のように別の単語での例をパッと思いついたり考えたりできる人、もしくはそういったことを考えるのが楽しいと思える人は、音声学の才能があると思います。)


すでにピンと来た人も多いのではないかと思いますが、冒頭で紹介した「ナジャグランディーバー」の例は、語末の長音に関する現象と密接にかかわる話題です。

「グランディーバ」ではなく「グランディーバー」のように語末に余分な長音が入ってしまっているのは、単なる藤原氏の不注意によるミスではなく、音声学的に言うと、上で挙げた「コンピューター/コンピュータ」の例のように、語末では長音があるときと無いときの発音の差が感じられにくいので、「グランディーバ/グランディーバー」の間で混同を起こしてしまったものと見なすことができます。

なにわ男子の動画では、メンバーによる書き間違いや言い間違いの内容がテロップでは「正しい形」に修正された状態で出されることが良くありますが(袋開けっぱで ➡ 袋開けっぱなしで; Dremin ➡ Dreamin など)、この「グランディーバー」に関してはテロップでも長音付きで表示されていたので、チェックが厳しい編集担当の人すらスルーしてしまうくらいに語末の長音の有無の音声的違いは目立ちにくいということなのでしょう。

実際に当該場面で藤原氏が発音した「グランディーバー」を聞くと、そもそも最後が「・・・ディーバー」のように伸びているのか、それとも「・・・ディーバ」のように短く発音されているのかが曖昧で、明確な判断がしにくい感じになっているように感じます。

当該部分の音声(なにわTube動画 2022年10月4日 3分45秒付近) ※再生時は音量にご注意ください

個人的には、藤原氏は文字では「・・・ディーバー」と書いておきながら発音上は「・・・ディーバ」のように短く発音しているように聞こえるのですが、皆さんはいかがでしょうか?

長くなりましたが、音声学的に見ると、この語末長音の有無の混同のパターンは、「ダイヤ/ダイア」「サイゼリヤ/サイゼリア」の間の混同のような音声の類似性に基づくタイプのものと近く、間違って覚えてしまうのも無理はないということになります。

(語末の長音以外の話題も含め、音声学的に見て興味深いものだから取り上げているのであって、間違いを取り上げて糾弾したりするつもりは全くありませんので誤解なきよう。)


ちなみに、長音(伸ばす音)は日本語の中では「特殊拍」というカテゴリに分類される音で、この特殊拍の中には促音(小さい「っ」)も含まれています(つまり、長音と促音は近い関係にあるということです)。

藤原氏といえば、「近鉄バファローズ」に関して「バッファローズではなくバファローズだ」としょっちゅう熱弁している印象がありますが、同じ特殊拍でも促音の有無には厳しいけれど、長音の有無には寛大であると言えそうですね。


アクセント

9分54秒付近:世界に一つだけの鼻

大喜利の中で大橋くんが出した回答で、「花」と「鼻」をかけたダジャレみたいになっていますが、音声学的にはアクセントの面で興味深い(というか教材にピッタリ)と思いました。

標準語の場合、「花」も「鼻」も「」(は=低、な=高)になってしまい区別がつきませんが、関西弁のアクセント辞典(中井2002)によると、関西では「花」は「」(は=高、な=低)、「鼻」は「はな」(は=高、な=高)のようにアクセントが異なるため区別できるようです。

実際、この場面での大橋くんの発音でも、「鼻」は「は」も「な」も高めのトーンでかなり平らに発音されていました。

当該部分の音声(なにわTube動画 2022年10月4日 9分54秒付近) ※再生時は音量にご注意ください

さて、標準語では「花」も「鼻」も同じ音調になってしまいますが、この2つの単語はアクセントは同じでしょうか?それとも何か違いがあるでしょうか?

ヒントは「助詞」です。

実は、単語単体で比較すると音調にほとんど差がないが、助詞を付けると助詞の部分の音調が大きく違って区別がつくようになる場合があります。

標準語での「花」と「鼻」もその一つで、助詞の「が」を付けるとすると、「花」については「」、「鼻」については「なが」となり、差が出てきます。

「花」のように助詞の手前まで「高」で助詞で「低」になるようなタイプを「尾高型」と言い、「鼻」のように助詞の前まで「高」でそのまま助詞の部分も「高」になるタイプを「平板型」と呼びます。

ということでまとめると、「花」と「鼻」は関西弁ではそもそも単語のアクセントが異なるので区別がつき、標準語では助詞なしでは区別が付かないが助詞が付けば区別ができるようになります。

「世界に一つだけの鼻」というのは大喜利におけるただのダジャレっぽい回答ではありますが、アクセントについて考えるうえでなかなか面白い具体例になるなと思った次第です。


これ以外にもアクセントに関しては今回の動画で山ほど気になる部分が出てきましたが、長くなりすぎてしまうので今回はこの辺で。


参考文献・出典

本文中で取り上げたメンバーの発言や音声・図はすべて下記の動画の該当部分(具体的な個所は本文中に明記)から引用したもの。

関西方言のアクセントに関する文献

  • 中井幸比古編著(2002)『京阪系アクセント辞典』勉誠出版.

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