なにわTube【2023年5月23日】感想文

今回の動画はメンバーでワードスナイパーというゲームをするという内容でした。

今回も色々と発音面で興味深いところがあったのでいくつか取り上げてみます(冒頭・締めのあいさつ以外で取り上げた話題は1つだけですが、前置きがかなり長くなってしまいました)。


冒頭・締めのあいさつ

今回は冒頭・締めのあいさつとも欠けることのない標準的なパターンでした。

8月に大学のオープンキャンパスがあり、毎年のことながら企画を考えないといけない時期なので、最近は何かそれに向けてのネタがないかなと思いつつ動画を見る日々です。

冒頭あいさつの7人で声を合わせるところ(「なにわ男子です」の部分など)で奇声を発したりふざけたりするメンバーがちょくちょくいる(ただし、毎回固定メンバーがそうしているというわけでもない)ので、、真面目にやっている率を見てみるのも良いかな、と思ったりとか。


撥音「ん」の発音

「ん」は撥音(はつおん)と呼ばれる音で、日本語では促音(小さい「っ」)や長音(伸ばす音)と合わせて特殊拍と呼ばれるタイプの音です。

特殊拍に共通する特徴として、隣にある音に合わせて発音が変化するという点があります。

例えば促音に関して言うと、「はっぱ」「ぱっと」「かって」という単語を見たとき、文字上はいずれも同じ「っ」で表記されているのに対し、実際の発音では [happa], [patto], [katte] のように小さい「っ」自体の発音は後に来る音に合わせて変化します(これに対して、長音であれば「アート」「イート」「オート」の3つはいずれも表記上同じ音「ー」を含んでいますが、実際の発音では「アアト」「イイト」「オオト」のように前の音と同じ音になります)。

撥音については、促音と同様に後ろに来る音に応じて音が変化しますが、促音のように後ろの音と全く同じ音に変わるのではなく、もう少し複雑なパターンになります。

撥音の基本的なパターンは「後ろに来る音の調音点と同じ調音点の鼻音になる」というものです。

「ん」を含む具体的な単語とその発音を示した以下の例を見ると、「ん」の直後に来る音の調音点が「両唇」であれば「ん」は両唇の鼻音であるmの音で、直後に来る音の調音点が「歯茎」であれば「ん」は歯茎の鼻音であるnの音で、また、直後に来る音の調音点が軟口蓋であれば「ん」は軟口蓋の鼻音であるŋで撥音される、という形になっていることが分かります。

「ん」の実際の発音「ん」の直後の音の特徴
sampop: 無声・両唇・閉鎖音
tombob: 有声・両唇・閉鎖音
ammam: 有声・両唇・鼻音
kentot: 無声・歯茎・閉鎖音
nendod: 有声・歯茎・閉鎖音
kannon: 有声・歯茎・鼻音
kiŋkok: 無声・軟口蓋・閉鎖音
daŋgog: 有声・軟口蓋・閉鎖音

このように、近くの音の特徴に合わせるように音が変化することを「同化」と呼びます。

上記の「ん」の場合は後ろの音の調音点に合わせる形で同化が起こるので、「調音点同化」と呼ぶ場合もあります。

また、後ろの音の影響によって前の音が変化するタイプの同化であるため、「逆行同化」であるとも言えます(逆に、前の音のせいで後ろの音が変わる場合は「順行同化」とか「進行同化」などと呼びます)。

以上のように、調音点に関する逆行同化を起こすというのが撥音(ん)の撥音の基本的なパターンなのですが、実際には「ん」の発音パターンはこれ以外にも存在します。

応用編ということになりますが、今回の動画ではっきりと発音される場面が出てきていたので取り上げてみます。

10分23秒付近/10分37秒付近:オランウータン

オランウータンには「ん」の音が2回出てきますが、最初の「ん」の方(オラウータン)の話になります。

まずは一般論から述べておくと、オランウータンの場合は「ん」の直後に母音のuが来ていて、このような場合、「ん」は上記の基本パターンに出てきたm, n, ŋのどれでもなく、鼻母音(母音の発音をするときの口の構えで鼻に息を抜く感じで発音される音)という特殊な音になると言われています。

この鼻母音という音はそれ自体が捉えどころのない音であるうえに、後ろの母音と一体化したような感じになってしまうので後続の母音との切れ目もあいまいとなるため、混同が起こってしまいやすくなります。

例えば、「雰囲気」は正しくは「ふんいき」という発音であるのに対して最近ではしばしば「ふいんき」と発音されることが多くなってきたというのも、「ん」に「い」が後続することで「ん」が発音上鼻母音となり、後続の母音「い」と一体化してしまったために混同しやすくなり、音の並びが変わっても違和感があまりないというのが一つの要因になっていると考えられます。

で、今回のオランウータンですが、メンバーの発音を聞く限り、「オラウータン」のように「ん」を脱落させてしまっているようでした(以下に音声の具体例を挙げておきます)。

動画に出てきた「オランウータン」の発音の例

大橋くんと長尾くんの場合(なにわTube動画 2023年5月23日10分23秒付近) ※再生時は音量にご注意ください
大西くんの場合(なにわTube動画 2023年5月23日10分37秒付近) ※再生時は音量にご注意ください

なぜ「ふんいき」→「ふいんき」のように「ん」と後続の母音の位置を入れ替えるパターンではなく脱落するパターンになったのかですが、もし「ん」と後続の母音の位置を入れ替えたとすると「オランウータン」→「オラウンータン」のようになり、「ん」の後に長音が来る形(=日本語では一般に許容されない形)になってしまいます。

これを解消しようとしてさらに「オラウンータン」→「オラウーンタン」のように変化させることも可能かもしれませんが、「ウーン」のように長音+撥音という構造は超重音節と呼ばれる構造で、日本語において許容されないわけではないがあまり良い形でもないことになるし、そもそも何度も音の入れ替えを起こすことで元の形から逸脱しすぎてしまうので選択されにくいだろうと思います。

それよりは、「ん」を脱落させて「オラウータン」のように発音する方が音の変化が生じる回数が1回のみで済み、元の形からの逸脱度合いも少ない(=聞いた時の違和感が少ない)ので、「ふんいき」→「ふいんき」のパターンではない形に落ち着いたのでしょう。

よくよく考えてみると、管理人の専門分野である音韻論(おんいんろん)も「ん」の後に母音が来る構造ですが、自分や周りの人の発音では「ん」を脱落させて「おいんろん」と言っている(つまり、今回のなにわTube動画に出てきた「オラウータン」と同じパターンになっている)ことが多いですが、普段は完全に無意識でやってしまっているので今回の動画を見ていなかったら気付かないままだったでしょうね。

最後に脱線しますが、管理人は学部生自体、インドネシア語が必修だったのでインドネシア語を勉強した経験があるんですが、その中でオランウータンはorang hutan(orang = 人、hutan = 森、語順的に後ろから前に修飾するので意味としては「森の人」)という意味だと教わった記憶があります。

当時はなぜ「オランフータン」じゃないのかと思ったりしましたが、音声学の知識を持った今ではその理由もはっきりとわかりますし、動詞の語形変化も上で記述した「調音点同化」というありふれたルールに基づくものであり簡単に覚えられることに気付いたりもして、音声学の知識は新たな言語の習得に役立つということを改めて確信した次第です。

[参考] 特殊拍に見られる同化については、「同化」に関する用語解説のページにまとめていますので必要に応じてそちらもご参照ください。

用語解説:同化

参考文献・出典

本文中で取り上げたメンバーの発言や音声・図はすべて下記の動画の該当部分(具体的な個所は本文中に明記)から引用したもの。

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