用語解説:同化

同化というのは、ある音が周囲の音(大抵は直前または直後にある音)の影響を受け、周囲の音と一部(または全部)の特徴を共有するような方向に変化する現象を指します。

より簡単に言えば、ある音Aが近くにある音Bのせいで、Bによく似た音に変化する現象ということです。

前にある音のせいで後ろの音が変化するタイプの同化は「順行同化」もしくは「進行同化」などと呼ばれるのに対し、後ろに来た音のせいで前の音が変化するタイプの同化は「逆行同化」と呼ばれます。

同化とは

ある音Aが近くにある音Bのせいで、Bと同じまたは近い音に変化する現象

・前にある音が原因で後ろの音が変化する場合・・・順行同化(または進行同化)

・後ろに来る音が原因で前の音が変化する場合・・・逆行同化

どちらのタイプの同化も極めてありふれた現象で、英語、日本語、韓国語、・・・など、世界中の言語でよく見られます。

以下では日本語の特殊拍(長音(伸ばす音)、撥音(ん)、促音(小さい「っ」)を例に挙げながら同化のパターンを見ていきましょう。

[参考] 同化の現象を理解するためには、子音の分類方法に関する知識が欠かせません。子音の分類方法についてはこちらのページで解説していますので必要に応じてご参照ください。

用語解説:子音の分類

同化の例:日本語の特殊拍

長音の場合

長音は、文字表記の上では同じ伸ばす記号「ー」が使われますが、実際の発音時には、前にある母音がそのまま伸ばされ(前の母音がコピーされ)て発音されます。

長音の場合は、長音が前にある母音と同じ音に変化していると見なせるので、「順行同化」(前にある音が後ろの音に影響して同化を起こしている)であると言えます。

長音の実際の発音
kaabu
miito
suupu
keeki
pooru

撥音(「ん」の音)の場合

撥音の同化のパターンは、以下の表に示した通りです(撥音は同化のパターンが複雑なので、ここでは基本的なパターンのみを示しています)。

表をざっと見てみると、まず、文字上は「ん」と書かれる音は、実際 m, n, ŋ の3パターンで発音される可能性があることが分かります。

さらに詳しく見てみると、m, n, ŋのどれで発音されるかは、「ん」の直前にある母音ではなく、「ん」の直後にある子音の調音点によって決まっていることも分かります。

具体的には、「ん」の後ろに来る音の調音点が両唇であれば両唇の鼻音のm、後ろに来る音の調音点が歯茎であれば歯茎の鼻音のn、後ろに来る音の調音点が軟口蓋であれば軟口蓋の鼻音のŋ、というように、「鼻音」という特徴は常に維持しながらも、調音点が後ろの子音と同じになるように変化を起こしています。

撥音の場合は、「ん」の音が後ろに来る音(厳密には、後ろに来る音の調音点)の影響で変化していると見なせるので、「逆行同化」であると言えます。

「ん」の実際の発音「ん」の直後の音の特徴
sampop: 無声・両唇・閉鎖音
tombob: 有声・両唇・閉鎖音
ammam: 有声・両唇・鼻音
kentot: 無声・歯茎・閉鎖音
nanded: 有声・歯茎・閉鎖音
kannon: 有声・歯茎・鼻音
ファキーɸaŋkiːk: 無声・軟口蓋・閉鎖音
daŋgog: 有声・軟口蓋・閉鎖音

以上が基本的な撥音の同化のパターンですが、後ろに来る音が摩擦音や母音の場合には、「ん」は上記の基本パターンに出てきたm, n, ŋのどれでもなく、鼻母音(母音の発音をするときの口の構えで鼻に息を抜く感じで発音される音)という特殊な音になるなど、細かく見ていくとより複雑なパターンが出てきます。

こういったさらに細かい話についても、機会があれば追加していこうと思います(参考までに、鼻母音についてはなにわTube動画感想文(2023年5月23日分など)の中で扱われていたりもします)。

促音(小さい「っ」)の場合

促音については、かな文字では常に「っ」(ッ)を用いますが、ローマ字で書いてみると分かる通り、発音上は後ろに来る子音と同じ音に変化します。

撥音(ん)と同様、後ろに来る音の影響で前の「っ」が変化していることになるので、これも「逆行同化」であると言えます。

「っ」の実際の発音
ピーhappiː
ポケpoketto
キーrakkiː
デイguddei
baggu
すんhassuɴ

日本語以外の言語の例:英語の過去形・過去分詞形の-edの発音

英語の過去形・過去分詞形(規則変化)の “-ed” には3種類の発音があり、以下のように-edが付く単語の末尾の音の種類によって[d], [t], [ɪd]のいずれで発音されるかが決まります。

語例 (※[ ]内は語末の発音)語末(-edの直前)の子音の特徴
-edが[d]で発音される場合stabbed [b], loved [v], judged [dʒ], ruled [l], played [ɪ][b], [v], [dʒ], [l], [ɪ]はいずれも有声音
-edが[t]で発音される場合stamped [p], walked [k], laughed [f], passed [s], washed [ʃ], reached [tʃ][p], [k], [f], [s], [ʃ], [tʃ]はいずれも無声音
-edが[ɪd]で発音される場合wanted [t], painted [t], handed [d], demanded [d] [t], [d]は歯茎閉鎖音
[ɪd]で発音される場合は-edの直前(-edが付く単語末)の発音がt, dの場合に限られるのでこれはやや例外的と見なすとして、それ以外の場合は、-edの直前の発音が有声音なら[d](=有声音)に、無声音なら[t](=無声音)になるというルールになっていることが表から見て取れます。

言い換えると、直前の音の声帯振動の有無(有声か無声か)によって、その後に続く-edの発音が有声のdになるか無声のtになるかが決まっているということになり、これも同化の一種だと言えます。

より具体的に言うと、声帯振動による同化であり、かつ変化を引き起こす要素が前、変化させられる側が後ろにある形なので順行同化でもある、ということになりますね。

(なお、語末がt, dのときだけ[ɪd]という特殊な形になるのは同化(=似た音の連続を作り出そうとする現象)ではなく、むしろtの後にt、dの後にdという同じ音の連続が起こらないようにあえて母音を挿入していると捉えることができるので、異化(似た音の連続を避けようとする現象)だと見なせます。)

その他

上記の例以外にも様々な同化がありますが、とりあえずはここまでにします。

機会があったらまた追記していこうと思います。

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