なにわTube【2022年12月20日】感想文

今週のなにわTube動画はクリスマスプレゼント交換会の2022年版でした。

普段はアップされた当日に動画を見て、当日~翌日までにはメモ(感想文)を書くようにしているんですが、今週は体調を崩していて更新のリズムが崩れてしまいましたが、いつも通り気になった点を挙げていきたいと思います。


冒頭・締めのあいさつ

今回は冒頭も締めも省略なくあいさつがあって、発音面でも特にこれまでと大きく異なるというような目立つ部分は無かったように思いました。

以前はあいさつ(特に、締めの方)が省略される回が連続するようなこともよくありましたが、ここ最近は毎回挨拶がある形が続いていて、サンプルを取っている者としては嬉しい限りです。


tの発音いろいろ:音素と異音

2分13秒付近ほか:スターの「ト」

今回の動画では、各メンバーがクリスマスの思い出を30秒で話すという場面があり、その際に「●●の思い出、スタート!」という掛け声で時間の計測が始まります。

メンバーが7人いるため、掛け声も7回あるわけですが、その掛け声の「スタート」の「ト」のtの発音が、毎回微妙に違っていて、「スタート」ではなく「スタード」や「スターロ」のように聞こえる発話が結構ありました。

「スタート」→「スターロ」という音変化は、英語のtの音が日本語のラ行のような音に聞こえることがある(例えば、waterが「ワラ」のように聞こえることがある)というのと非常によく似た音変化で、ちょうど、管理人が教えている音声学の授業で、「英語のtの音が日本語のラ行のような音に聞こえることがある理由を音声学的な根拠をもとに説明せよ」というレポートを課したばかりというタイミングでもあるので、今回はこの話題を取り上げようと思います。

とりあえず、掛け声の中で出てきたスタートを順番に例として出してみます。

スタート①(発話者:大西くん)

(なにわTube動画 2022年12月20日2分13秒付近より) ※再生時は音量にご注意ください

スタート②(発話者:西畑くん)

(なにわTube動画 2022年12月20日3分23秒付近より) ※再生時は音量にご注意ください

スタート③(発話者:西畑くん)

(なにわTube動画 2022年12月20日4分19秒付近より) ※再生時は音量にご注意ください

スタート④(発話者:西畑くん)

(なにわTube動画 2022年12月20日5分6秒付近より) ※再生時は音量にご注意ください

スタート⑤(発話者:西畑くん)

(なにわTube動画 2022年12月20日6分1秒付近より) ※再生時は音量にご注意ください

スタート⑥(発話者:西畑くん)

(なにわTube動画 2022年12月20日7分3秒付近より) ※再生時は音量にご注意ください

スタート⑦(発話者:西畑くん)

(なにわTube動画 2022年12月20日8分25秒付近より) ※再生時は音量にご注意ください

人によっても聞こえ方が多少違う場合がありますが、「ト」の発音が必ずしも「ト」に聞こえるわけではないという点は共感していただけるのではないでしょうか。


さて、今回見て(聞いて)いただいた音声は本来tであるはずの音が別の音になっているように聞こえてしまう場合があるという現象ですが、これと関連するのが、「音素と異音」という概念です。

「音素と異音」というのは音声学・音韻論における重要な概念の一つで、簡単に言うと、音素というのは我々が頭の中で発音しているつもりになっている音、異音というのは音素が実際に発音されたときの音のことです。(音素と異音については、現在用語解説のページを作成中です。完成はいつになるか分かりませんが・・・)

例えば、英語のwaterが「ワラ」のように聞こえるという現象は、英語の音素/ t /が異音である[ ɾ ](←日本語のラ行の子音のような音を表す記号)として実現したということになります(※音素は/ /で括り、異音は[ ]で括って表示するというのが一般的な慣習となっているので、ここでもそのようにしています。また、[ ɾ ]は弾き音やたたき音と呼ばれる音を表す記号で、英語のlやrとは別の音になります)。

もちろん、英語のtが常に[ ɾ ]になるわけではなく、topやstopのような単語の場合はちゃんと[ th ]や[ t ](tの右肩に付いているhは息が瞬間的に強く出るという意味です)のように発音され、日本人の耳にもtだと感じられます。

以上の例から、英語の音素/ t /には複数の異音が存在していることが分かります。

英語の音素 / t /と異音

・[ th ]:/ t /が音節の先頭にあるとき(top, tickなど)

・[ t ]:/ t /が音節頭にないとき(stop, staffなど)

・[ ɾ ]:/ t /が前後を子音に挟まれ、かつ前の母音に強勢(アクセント)があるとき(wáter, bétter, létter, …)

・etc.

↑の例から分かるように、音の配列等の条件によってどの異音が出現するかが決まっていて、/ t /が音節の先頭にあるのに[ ɾ ]で発音されるといったことは(言い間違でもしない限り)起こりません。

このように出現する条件が定められている異音のことを「条件異音」と言います(逆に、音の配列等の条件が同じなのに発音するたびに別の異音が出てくるような場合、それらを「自由異音」と呼びます)。

ここまでは英語の/ t /を例に音素と異音の関係について解説してきましたが、今回取り上げた日本語の「スタート」の発音についてはどのように解釈できるでしょうか?

「スタート」の例で言えば、大西くんや西畑くんを「スタート」と言おうとしていて、実際に発音された音が「ト」以外の音(例えば、「ロ」や「ド」など)だったということなので、音素である/ t /が[ ɾ ](「ド」に聞こえたとすれば、[ d ]として実現したということになります。

もちろん、ゆっくり丁寧に発音すれば、「ト」がきちんと「ト」と聞こえるはずなので、日本語の/ t /には[ t ]として発音されることもあります。

英語の/ t /の例と異なるのは、単語はすべて「スタート」であり、sutaatoという音の配列であるという点ではすべて同じ条件であるにもかかわらず、発音するたびに[ t ]や[ d ]、[ ɾ ]など複数の異音が出現しているという点であり、これらの事実を踏まえると、今回のなにわTube動画においては、[ t ]、[ d ]、[ ɾ ]が音素/ t /の自由異音になっていると解釈できそうです。

・・・と、定義上はそうなるのですが、一般的な日本語音声学・音韻論の議論において、タ行子音 / t /が[ t ]の他にも自由異音として[ d ]や[ ɾ ]を持つというような話はあまり聞きません。

音声学・音韻論の研究者たちは、出現条件が決まっている異音については興味を持って分析に当たる傾向がありますが、出現条件が明確ではなく自由に入れ替わる場合には、発話する際の発音の緩みとか、言語の本質的ではない部分での現象として片づけがちで、今回の「スタート」に見られた複数の異音についても、「掛け声」でありかつ「早口」という特殊な条件が重なった結果、たまたま出てきただけだと解釈されそうな気がします。

実際、音響音声学や知覚音声学の知見(※専門的になりすぎるのでここでは省略)からも原因が明白なので、管理人自身、正式に分析しろと言われたらそういう解釈を採用します。

とは言え、今回の動画を見たことで、日本語の/ t /の音にも教科書的な知識として一般に言われるよりもかなり幅広い音のバリエーションがあるのだということに気づかせてもらえて、管理人的には目から鱗でした。

なにわTubeの動画は音声学・音韻論的な教材として有望だなと、改めて感じた次第です。


参考文献・出典

本文中で取り上げたメンバーの発言や音声・図はすべて下記の動画の該当部分(具体的な個所は本文中に明記)から引用したもの。

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