なにわTube【2022年12月13日】感想文

今回のなにわTube動画は「ダンスバトル」とのことで、タイトルを見たときは踊りメインで普段のような会話が無いのかなと、(発音の分析をしている者的に)やや残念に思ってしまいましたが、見てみたらいつも通り会話だらけで個人的にはありがたかったです。


冒頭・締めのあいさつ

今回は冒頭・締めのあいさつ共にありましたが、冒頭の「せーの」と締めの「以上」が欠けていました。

経験上、冒頭の「せーの」が無いことはこれまでも結構ありましたが、締めの「以上」が欠けているのは珍しいことです(締めのあいさつ(「以上、なにわ男子でした」が丸々省略されてしまうことはよくあるんですが、以上だけの省略はレア)。

それ以外の点はいたって普通な感じだったと思います。


濁点が付く音、付かない音

2分11秒付近:「もう゛やりたい゛!」

藤原氏が駄々っ子の真似をしている中で、テロップに「もう゛やりたい゛!」のような表示がされていました。

ここでのポイントは、本来濁点が付かないはずの音(「う」や「い」)に濁点が付けられているという点です。

最近、自分の所属している大学とは別の大学で音声学の授業を持っているのですが、たまたま今回の動画配信日と同じ日の授業で「なぜ濁点が付く音と付かない音があるのか?」という話題を取り上げたタイミングだったので、今回はこの点について音声学的な観点から掘り下げてみたいと思います。

(「トントン vs. ドンドン」の例のように、濁点が付くことで音のイメージが変わる(程度が大きい、重い、ネガティブなイメージなどが出てくる)わけですが、実際に藤原氏の駄々っ子の物まねの声を聴いてみると、テロップを入れた人が「う」や「い」にあえて濁点を付けようと思った気持ちもわりと理解できます。が、今回は「あえて濁点を付けたらどうなるか?」ではなく、一般論として濁点が付く音、付かない音がなぜ生じるかという話です。

なぜ濁点を付けられる音と付けられない音があるのか?

日本語の50音の「あ・か・さ・た・な・は・ま・や・ら・わ」行の中で、濁点が付く音は「か」「さ」「た」「は」行のみで、それ以外の行の音には濁点は付けられません。

日本語を母語とする人(以下、日本人)であれば、どの音に濁点を付けることができ、どの音には付けることができないかは簡単に分かると思いますが、なぜかと言われるとなかなか答えるのが難しいのではないでしょうか?

実は、ここには発音の原理という音声学的な要因が絡んでいて、音声学の「子音の分類方法」を理解すると答えを導き出すことができます。

※以下の内容は、「子音の分類方法」に関する知識を前提としています。そんなの知らないぞという方は、以下の用語解説のページを見てもらったうえで以下の内容を見てもらうとより理解が深まると思います。

用語解説:子音の分類

濁点が付くことで、発音にどのような変化が生じるか?

まずは、ある音に濁点が付くとどのような音の変化が生じるのかを考えてみましょう。

濁点が付くのは「か・さ・た・は」行なので、これらの行の子音(k, s, t, h)と濁点が付いたことで生じる「が・ざ・だ・ば」行の子音(g, z, d, b)の特徴を見ていきましょう。

特徴を見る際には、子音の分類表(参考までに、↑の用語解説ページにある表を以下にも出しておきます)をもとに「声帯振動の有無」「調音点」「調音法」を書き出します。

子音の分類表(用語解説:子音の分類のページにあるものと同じです)。英語に関する表ですが、多くは日本語にもそのまま当てはめられます。なお、発音記号では j は「ヤ」行の子音を表すので注意。

それぞれの音の特徴を書き出した結果は以下のようになります。

声帯振動の有無調音点調音法
k無声軟口蓋閉鎖音
g有声軟口蓋閉鎖音
s無声歯茎摩擦音
z有声歯茎摩擦音
t無声歯茎閉鎖音
d有声歯茎閉鎖音
h無声声門摩擦音
b有声両唇閉鎖音

表を見てみると、まず、濁点が付けられるk, s, t, hは、いずれも声帯振動の有無の面で「無声」(発音時に声帯の振動が起こらないタイプの音)であるという共通点を持つことが分かります。

さらに、「k → g」「s → z」「t → d」「h → b」という変化に共通する特徴は、声帯振動の有無の部分で「無声 → 有声」という変化が起きている点であることも見えてきます。

つまり、濁点が付くというのは、もともと「無声」だった音が「有声」に変化する現象だということですね。

濁点を付けられない音に共通する特徴は?

すでに、濁点を付けられる音に共通するのは「無声」という点であることは把握できましたが、それでは、濁点を付けられない音に共通する特徴は何でしょうか?

同じように、子音の分類基準に従って「あ・な・ま・や・ら・わ」の特徴を書き出してみると、以下のようになります(※「や行」の子音は、簡略表記では y とすることもありますが、正式な発音記号では j となります)。

声帯振動の有無調音点調音法
a有声
n有声歯茎鼻音
m有声両唇鼻音
j (y)有声硬口蓋半母音
w有声両唇/軟口蓋半母音

これらに共通するのは、すべて「有声」という点です。

結論

以上の議論を整理してみると・・・

  • 濁点を付けられる音の特徴:無声音
  • 濁点を付けられない音の特徴:有声音
  • 濁点が付くことによって起こる変化:「無声音 → 有声音」

ということになります。

ここまで来れば、もうわかったという人も多いでしょう。

まとめると、「濁点というのは、無声音を有声音に変化させる機能を持つ。従って、無声音である音(k, s, t, h)に濁点を付けて有声音に変化させることはできるが、もともと有声音である音には付けることができない(付けてもそれ以上有声に変化することはないので)」というような感じでしょうか。

なにわTubeに出てきた「もう゛やりたい゛!」という表現から話がだいぶ逸れてきた感はありますが、音声学(発音の原理)に密接に関係する話題だったということで良しとしたいところです。

ちなみに、本来濁点を付けられない音にあえて濁点を付けることで生じる効果というのは、今回の話とは別のトピックにはなりますが、とても面白い題材だとも思っています。


参考文献・出典

本文中で取り上げたメンバーの発言や音声・図はすべて下記の動画の該当部分(具体的な個所は本文中に明記)から引用したもの。

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