なにわTube【2022年8月2日】感想文:母音の無声化ほか

2022年8月2日のなにわTube動画は、ドッキリ企画×道枝くんの初主演映画(「今夜、世界からこの恋が消えても」)観賞会という内容でした。

ドッキリの模様を楽しむのが通常の見方なのかもしれませんが、音声学者的には、メンバーの発音の中に興味深い音声学的現象がないかを探すというのも楽しみ方の一つです。

現在は夏休み中で大学の授業がありませんが、もし授業期間中だったらさっそく授業で音声学の具体例・題材として使えるなと思った点を挙げてみたいと思います(どこかに書いておかないとすぐ忘れてしまうので)。

気になった点

冒頭のあいさつ

なにわTubeでは冒頭でほぼ毎回「どうも~なにわ男子です!」というあいさつが出てきますが、現在進行中の研究プロジェクトの関係で、管理人はこのあいさつを毎週欠かさずチェックしています。

「どうも~」の部分についてはほぼ毎回西畑氏が言うのですが、発音の仕方が非常に安定していて、過去1年以上のあいだこれといった変化は見られませんでした。

そんな中、今回は極めて顕著な発音の変化が観察されたのです(イメージがわきにくいかもしれませんが、天文学者が新しい星を発見して興奮している様子を想像していただくと近いと思います)。

具体的に言うと、「どうも~」が「づぅおも~」のように、外国語風の発音になっていて、このような発音で出てきたのは(少なくともなにわTubeにアップされているものとしては)初のはずです。

参考までに、音声の例を出しておきます(再生時は音量にご注意ください)。

↑従来型「どーも」(2022年7月5日動画より)
↑新たに登場した変異型「どーも」(2022年8月2日動画より)

これまで変化が少なかった「どうも~」の発音が今後大きく変化していく転換点となるのか、要注目です。

ちなみに、日本語のd(tもですが)は舌の先端が上の歯の裏側~そのすぐ後ろの歯茎付近に付いて発音されるタイプの音です(歯茎音(しけいおん)といいます)。

tやdの発音の際の舌の動きは基本的に英語でも同じですが、英語の場合は舌の先が触れる位置が日本語のtやdよりも若干後ろ気味になるので、その結果としてtやdの音色が変化し、taやdaがしいて言えば「た」「だ」よりもどちらかというと「つぁ」「づぁ」に近いような感じの独特な音になります(日本人のアーティストで外国語風の発音をする人がいますが、tやdをこのように発音していたりします)。

今回の西畑氏の「どうも」は、通常の日本語のdよりも調音点を後ろにずらし気味にして発音されたものではないかと推測しています。

それから、脱線ついでに日本語と英語のtの発音の違いについてさらに言うと、日本語に比べて英語はtの発音の際、息をたくさん出して発音します(=このように出される音を有気音と言います。tだけでなくp, kも同様です)。

2022年8月30日追記

従来型とは異なる「どうも~」ですが、これ以降も何度か発音が出てきています。それらを分析する中で、子音dの発音に特徴があると捉えるよりも、母音が二重母音的に発音されていると見なす方が、動画のBGMや効果音、周囲の雑音などでdがはっきり聞こえない場合でも分析できそうなので、これ以降は母音の特徴と見なして調べていこうと思っています。


3分30秒付近:「炎の力でおまえを倒す!」

赤いカツラを被った藤原氏が煉獄さんになったつもりで発したセリフです。

メンバーからは「そんなダサいこと言わん」とつっこまれていましたが、個人的には「倒す」の「す」が無声化を起こしていない(通常、[ taos ] のように発音されるはずのところ、[ taosu ] のように母音をはっきり発音していた)のが気になりました。

図:当該部分の音声波形とスペクトログラム。通常無声化するはずの母音uが出てきています。

なお、母音の無声化については以下のページで説明しているので必要に応じてご参照ください。

用語解説:母音の無声化

↑の用語解説でもちょっと書いたとおり、無声化する環境であえて無声化しないことで、控えめな印象に結び付く可能性があります。

動画内で大西くんが藤原氏に「煉獄さん知らんねんけどこの人」と言っているところを見ると、藤原氏は煉獄さんのことを知らずに想像してセリフを作り出している状況なので、自信のなさが「無声化をあえてしないことによる控えめさ」と結びついて発音された結果なのかもしれません。


12分50秒付近:「えげつ」

これは音声学関連の話ではありませんが、試写会で映画を見終わったときに大橋くんが発した「えげつ」という表現が言語学的に面白いなと思いました。

管理人としては、「えげつ」単体では使わず「えげつない」という形で下品さや露骨ないやらしさを表す表現して使用されるイメージを持っていました。

色々と辞書を調べてみてもやはり「・・・ない」まで含めて見出し語となっていて、やはり「えげつない」という形で使うのが一般的なところなのではないかと思いますが、大橋君は「ない」を取って「えげつ」と発言していました。

大橋くんが発した「えげつ」(12:50秒付近) ※再生時は音量にご注意ください

発せられた前後の文脈からすると、ネガティブな意味ではなく、むしろ良い意味で使っているのは明白だったので、単語の構造的に「えげつない」=「えげつ」+「ない(否定表現)」と捉えて、「ない」を取ることで良い意味の表現として使ったのだろうと推測できますが、このような使い方は斬新で珍しいように思いました。

気になったので「えげつ(ない)」についてちょっと検索してみると、佐久間(2019)「変化する日本語『えげつない』の今を捉える」というタイトルの論文(研究ノート)が見つかったので読んでみましたが、この論文では「えげつない」が良い意味で使われるようになってきているという指摘はされていましたが、「えげつない」から「ない」を取り去って良い意味で使うという指摘はないようでした。

若い世代特有の使い方、もしくは関西での限定的な使い方なのでしょうかね?


15分00秒付近(16分05秒付近にも):気持ちを改変できる(させる)映画

試写会が終わって、各メンバーが「今夜、世界からこの恋が消えても」のキャッチコピーを考えるという流れの中で、道枝くんが作成したキャッチコピーの中に出てきた表現です。

図:道枝くんによるキャッチコピー(なにわTube2022年8月2日動画16分06秒より)

これも音声学的な話ではありませんが、「気持ち」という語と「改変」という語が結び付けて使われているところが個人的には気になりました。

「改変」と言うと、内容を改めること(三省堂『新明解国語辞典』第4版)とあり、「気持ちを改変させる映画」というのは「映画を見ることでこれまでとは違った気持ちになれる」的なことを言いたいのは分かるのですが、コロケーション的には斬新な使い方だなという印象を受けました。

道枝くんは当初「気持ちを変えられる映画」と言って、その後「改変できる」と言い直している(そして、最後に文字でも「改変させる」と書いている)ので、たまたま間違って「改変」という単語を使ったわけではなく、意図的に使っているのだろうと推測できます。

言語は変化していくものなので、管理人の世代の人間の「改変」という単語の意味や使い方と、最近の若者にとっての「改変」の意味や使い方が変わってきているのかな、と感じた場面でした。

参考文献・出典

佐久間淳子(2019)「変化する日本語『えげつない』の今を捉える」『応用社会学研究』61, 245-253.

「どーも」の音声サンプルはそれぞれ以下の動画の冒頭部分より抜粋したもの。その他音声・画像サンプルは本文中に記載した当該箇所より抜粋したもの。

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