なにわTube【2023年8月22日】感想文

24時間テレビが週末に控えていることもあってか、今回の動画は24時間テレビにちなんだ挑戦を行うという内容になっていました。

挑戦の内容自体はかなりシンプルなもので、それに対して笑いどころをたくさん作れるところはさすが関西出身のグループですね。

さて、今回も音声学的に興味深い点がいろいろあったのでいくつかピックアップしてみます。


冒頭・締めのあいさつ

今回も冒頭・締めのあいさつともに出てきましたが、前回同様、冒頭あいさつの部分に効果音(今回は長めのドラムロールみたいなやつ。効果音ではなくてBGMの出だしのパートのなのかもしれません)が重なってしまい、その部分の発音が分かりにくくなってしまっていました。

締めのあいさつの方は軽めのBGM程度なのでその点はありがたかったですが、効果音が重なるとせっかくのデータを欠損値扱いにせざるを得なくなってしまうので、冒頭あいさつも効果音なしにならないものでしょうかね?


撥音「ん」の調音点同化

7分28秒付近:戦犯謙杜

黒ひげ危機一髪の挑戦の中で、長尾くんが2回連続で飛ばしてしまったときに出てきた表現です。

発音上、「せと」と「ん」の音が3回出てきますが、日本語の「ん」は後ろに来る音に応じて発音が変化するという特徴を持っているため、これら3つの「ん」は [ sempaŋkento ] のようにすべて異なる発音になります。

具体的には、最初の「ん」は後ろにp(調音点=両唇音)が来ているので調音点同化を起こして両唇鼻音のmになるのに対し、2つ目の「ん」は後ろにk(調音点=軟口蓋)が来ているので軟口蓋鼻音のŋに、そして3つ目の「ん」は後ろにt(調音点=歯茎)が来ているので歯茎鼻音のnとなる、という感じです。

「せんぱんけんと」に限らず、「ん」の音は後ろに来る音によって発音が規則的に変化するので、日本人が「ん」の音を発音する際、話し手は「ん」をすべて同じように発音しているつもりで実際には無意識に後ろの音に応じて異なる音を発音しているという事態が起こります。

ただ、聞き手側もそれらの音の違いには気づかずすべて同じ「ん」だと認識するので、日本語母語話者同士であればコミュニケーション上の障害はまったく起こりません(音声学を学んだりしない限りこうしたことに気付くことすらないでしょうね)。

さて、このような実際の発音と我々の認識のずれを、音声学では音素(我々が頭で認識している抽象的な音)と異音(実際の発音)という概念で説明します(音素は/ /に入れて、異音は[ ]に入れて表記することになっています)。

「ん」の場合、日本人であれば /ん/ という音のカテゴリを頭の中に持っていて、それが実際の発音の際には後ろの音に応じて [m] [n] [ŋ] という異なる音として実現する、という解釈になります(異音[m], [n], [ŋ]は音素/ん/に属する、というような表現をすることもあります)。

管理人が日本人学生に対して授業で音素と異音という概念を説明する際、この「ん」の例をよく用いるのですが、なかなか1語で複数の「ん」があり、かつその「ん」がすべて異なる発音であるという例はなかなかないので、普段は「かんばい」(「ん」が [m] になる例)、「かんだい」(「ん」が [n] になる例)、「かんがい」(「ん」が [ŋ] になる例)、・・・といったようにそれぞれ別の単語を挙げるようにしてきました。

・・・が、今回の「せんぱんけんと」は「ん」が3つ出てきて、しかもそれがすべて異なる異音として実現するというとても良い例だなと思い(来年度の授業ではぜひ具体例として使いたい!)、動画の当該部分を見てとてもテンションが上がりました。

[参考] 調音点同化や、調音点(子音の分類基準)については、用語解説のページを設けていますので必要に応じてご参照ください。

用語解説:同化 用語解説:子音の分類

しりとりと日本語の音の単位(音節、モーラ、・・・)

今回の動画の挑戦の一つにしりとりがありました。

しりとりをする際には、「前の単語の最後の音」と「同じ音で始まる単語」を繋げていくのが基本ルールとなります。

ただ、例えば「コーヒー」に対して「ヒー」で始まる単語を続けるのか、それとも長音は無視して「ヒ」で始まる単語を続けるのか、もしくは「長音は前の母音と同じ音(コーヒー=コオヒイ)である」と見なして「イ」で始まる単語を続けるのか、・・・といったように、前の単語の最後が長音である場合や拗音である場合に何を「最後の音」だと定義するかは人(地域・世代?)によっても異なるようです。

今回のなにわTube動画では、「ヒコロヒー」に対して「ヒグマ」、「コーヒー」に対して「引き出し」、といった具合で長音を無視して繋げるというルールで行われていましたが、管理人(名古屋出身・昭和世代)は自分が子供の頃は「イ」で繋げるやり方で遊んでいた(ただ、国語の教科書か何かで「こういうときは長音を含めた単位(この場合、「ヒー」)で続けるみたいなことが書かれていたような記憶もある)ので、これを見ていて「お?」と思いました。

さて、このように「最後の音」や「最初の音」の定義に様々なものが存在することについては、音声学を学んだ今ではある程度理解ができる気がします。

日本語では、「語の長さ」を数える際にはモーラ(拍)という単位が使われます(「とうきょう」なら「と・う・きょ・う」で4拍、「なら」は「な・ら」で2拍、・・・といった具合。俳句の5・7・5のリズムもこのモーラに基づいていますし、しりとりも基本的にはモーラがベースになっています)。

先ほど例に挙げた「コーヒー」の場合、モーラで区切ると「コ・ー・ヒ・ー」のように4拍分あることになり、長音が前の母音と同じ音価になることを反映させるならば「コ・オ・ヒ・イ」となります。

ということで、「コーヒー」の後に「イ」で始まる単語を続けるというルールは、「長音の実際の音価を踏まえてモーラで区切る」という発想に当たるでしょう。

また、「コーヒー」に対して「ヒー」を続けるというのは、「ヒー」をひと固まりと見なしていることになりますが、音声学的にはこの「ヒー」は重音節というものに当たり、モーラで数えると2拍分だが「音節」という単位で数えると1つ分の長さになるというちょっと特殊なパターンになります。

日本語の音声・音韻現象を説明するうえではモーラ以外にこの「音節」という概念も重要であるとされているので、しりとりの際に「音節」を単位として区切る(コーヒーに対して「ヒー」を続ける)というルールが出てきたとしてもおかしくはないなと思います。

それから、今回のなにわTube動画のように長音を無視して続ける(コーヒーに対して「ヒ」を続ける)というのはどうなるかな?と考えてみると、日本語の長音というのは自立性が低い(前の自立したモーラに寄生するような感じで出てくる)し、語末の長音はしばしば脱落する(コンピュータ → コンピュータ)といった事実があるし、「ヒー」も「ヒ」も(重音節、軽音節という種類の違いはあっても)1音節であることには変わりないので、これらのことを踏まえると、長音を無視するルールもそれほど不自然ではないかな、と感じます。

話は少し変わって、管理人が不思議だなと思うのは、単語の最後の長音に関しては上で挙げたように複数のルールがあり得る(人によっては、どれが正しいルールなのか?!と熱くなる)のに、単語の最初の音についてはあまり制約が無さそうだという点です。

例えば、音節ベースでやる(「コーヒー」の後には「ヒー」で始まる単語を繋げるべきだと考える)人は、「コーヒー」の後に「引き出し」が来たらダメだと見なすと思いますが、音節で数えるという原則に従うと、「トマト」の後に「トーマス」が来た場合、「トマト」の後には「トー」で始まるのではなく「ト」で始まる単語でなければダメ、ということになるはずです。

でも、おそらくそのような問題意識を持つ人はいなさそうで、明らかに語頭と語末で許容度が異なっているような印象です。

同じ子音でも発音の仕方や知覚のされかたが語頭と語末で異なるといったことはよくあることですが、しりとりでも語頭・語末で非対称性があるのは面白いなと、今回の動画を見て改めて思った次第です。


参考文献・出典

本文中で取り上げたメンバーの発言や音声・図はすべて下記の動画の該当部分(具体的な個所は本文中に明記)から引用したもの。

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