なにわTube【2023年8月15日】感想文

今回の動画はコンサート当日のルーティンなど、なにわ男子の各メンバーの普段の行動を語り合うという内容でした。

前回はMVのみで通常の動画としては1週間空いていて、今回はちょうど長尾くんの誕生日にあたる(8月生まれ全員が誕生日を迎えたことになる)のでお祝い関連の企画が来るかと思いきや、かなり違う内容でしたが、なにわ男子の面白さが全面に出ていてとても面白い動画だったと思います。

発音の面でも色々と興味深い点がありましたので、いつものようにいくつか取り上げてみます。


冒頭・締めのあいさつ

今回は単発の動画ということで冒頭のあいさつも締めのあいさつも両方ともあり、あいさつの発音自体にも特に目立った点はありませんでしたが、冒頭あいさつに関しては効果音がかなり激しく入っていました。

ここ最近はあいさつ中の効果音が控えめだったり、入っていてもちょうどいいタイミング(=分析の邪魔にならない部分)で入っていたりしていたのでありがたかったのですが、編集担当者が変わったとかですかね?

ほとんどの人にとってはどうでもいいことだとは思いますが、毎回あいさつの各パートの長さを正確に計測しようと試みている者にとっては死活問題なので、もし編集がこれを見ていたらよろしくお願いします。


外来語の表記と発音

0分26秒付近、その他たくさん:ルーティン vs. ルーティーン

今回は「ライブ当日のルーティンは?」「何も予定がない休日のルーティンは?」「長期旅行のルーティンは?」など、「ルーティン」(決まってすること)がテーマでした。

この「ルーティン」、テロップではこのように表記されていますが、メンバーたちはいずれも「ルーティーン」と発音していて、表記と実際の発音が異なっていました。

なにわTube 2023年8月15日動画 0分26秒付近より

ルーティンとルーティーンのほか、少し上の世代の方々だと「ルーチン」と言ったりもするので、少なくとも3通りの発音があることになりますね。

パッと見たときは、英語のroutineは/ ruːtíːn /で、メンバーは英語の発音により忠実に発音しようして「ルーティーン」と発音していたのかな、くらいに思っていたのですが、辞書(新明解国語辞典第4版)を引いてみたところ「routine=『踏み固められた道』の意のフランス語に由来」とあり、英語ではなくフランス語からの借用語なのだそうです。

確かに、綴りと発音の対応関係が通常の英語のものとは違っているし、英語は歴史的に見てフランス語の影響を強く受けているので、英語にあるroutineがフランス語由来というのは全く不思議な話ではないですが、routineが日本語に借用される過程では英語を経由して日本語の中に入ってきたのだろうと勝手に思いこんでいたので、フランス語から直接借用されたという辞書の記述はちょっとした驚きでした(辞書にそう明記されているということは、何らかの根拠資料等があるのでしょう)。

で、routineのフランス語での発音を調べてみると/ ʀutin /とのことなので、フランス語の発音にできるだけ近づけるという観点では、「ルーティーン」よりも「ルーチン」や「ルーティン」の方がより近いという話になるかもしれません(フランス語の正確な発音には詳しくありませんが、先日フランスから来た方と交流する機会があり、フランス語の発音を実際に聞かせてもらった際、tiの発音は「ティ」よりもむしろ「チ」っぽく聞こえる感じだったので、意外に「ルーチン」が近かったりするかも?)。

言語により近い表記・発音はどれかを議論しようとしても、routineに関しては英語の発音をもとに考えるかフランス語の発音をもとに考えるかでも話が変わってきそうなので、どの表記・発音でも構わないということになりそうですね。


声帯振動の有無

音声学を勉強したことのある人であれば、「声帯振動の有無」と言えば子音や母音の発音において有声音か無声音かに関わる話題だと分かると思います。

これまでに何度も出てきた話題ではありますが、これに関連して今回の動画の中から2点ほど取り上げてみたいと思います。(声帯振動の有無については、子音の分類に関する用語解説のページに多少の説明がありますので必要に応じてご参照ください。)

10分39秒・46秒付近:「かく」

高橋くんが最近やったゲームの話をしている流れで、大橋くんが「格ゲー」と言おうとして言った発言です。

「格ゲー」の「ゲー」を言っていなかっただけでなく、「格」の部分も声がかすれてしまった感じになっていて、その後西畑くんに発音を真似されていました。

この大橋くんによる「かく」と西畑くんによる「かく」、よく似ているのですがよく聞くと若干の違いがあります(以下に当該部分の音声を引用します)。

大橋くんによる「かく」

当該部分の音声(なにわTube動画 2023年8月15日10分39秒付近) ※再生時は音量にご注意ください

西畑くんによる「かく」

当該部分の音声(なにわTube動画 2023年8月15日10分46秒付近) ※再生時は音量にご注意ください

先に西畑くんの「かく」から言うと、kakuのaとuが完全に無声化して、子音+無声化母音という状態になっています(日本人は母音がなくても母音があるように聞こえてしまうという音声知覚上の特徴を持っているのでaとuがあるように聞こえるかもしれませんが、aもuも声帯の振動が無い状態で発音されています)。

それに対して、大橋くんの方はと言うと、確かに普通に「かく」と発音する場合と比べると母音のaもuも声帯の振動が弱くなっていますが、完全に声帯振動が失われているわけではなく、わずかですが母音の発音が聞こえます。

発音時に声帯が閉じた状態であれば肺からの呼気によって声帯が振動して有声音になり、声帯が開いた状態であれば振動しないので無声音になるというのが一般的な定義ですが、西畑くんの発音では声帯はほぼ完全に開いた状態になって声帯振動を起こしていないのに対し、大橋君の「かく」の場合は声帯が完全に閉じてはいないが完全に開ききってもいないくらいの状態で、わずかに有声の成分が出ていたのかな、というような印象です。

音声学を勉強したばかりの人は、声帯振動の有無に関して完全な「有声音」と完全な「無声」の2パターンしかないと思ってしまいがちですが、声帯の開き具合には「閉じた状態」vs.「開いた状態」という2つの段階しかないわけではなく、実際には半分くらい開いた状態とか、8割くらい閉じた状態のように様々な段階があると考えられ、その程度によっては典型的な「有声」と典型的な「無声」の中間くらいの音として出てくることもあり得るのだ、ということを教えてくれる一例ですね。


13分33秒付近:ちょっと

西畑くんが発音した「ちょっと」が「ちょっど」っぽく聞こえる部分がありました。

上で取り上げた「かく」は、本来有声であるはずの母音の声帯振動が失われて無声になってしまうパターンでしたが、それとは逆で本来無声の音が有声に聞こえるというパターンです(残響など、動画の録音環境に起因する可能性もありますがとりあえず聞こえた印象に基づいて話を進めます。なお、再生環境によっても聞こえ方がかなり違うかと思います。イヤホン等で聞くか、性能の良いスピーカーで聞く方がより「ちょっど」っぽく聞こえる感じが増すはずです)。

「ちょっど」っぽく聞こえる「ちょっと」

当該部分の音声(なにわTube動画 2023年8月15日13分33秒付近) ※再生時は音量にご注意ください

「ちょっど」っぽく聞こえる理由としては、「と」のtの破裂が一般的なtに比べて曖昧になっている点や先行母音がやや長めになっている(残響の影響もあるかも)など、複数の理由が考えられますが、興味深いのはこれが言語一般的な法則に反した音変化であるという点です。

言語一般にbb, dd, ggのような有声阻害音が2つ並ぶような構造は発音上難易度が高いことが知られていて、日本語でも促音(小さい「っ」)の後に無声子音が来るのは一般的だが有声阻害音(b, d, gのような音)が来ることは少ないとされています。

外来語の場合は例外的に促音の後に有声阻害音(b, d, g)が来る場合もありますが、その場合でもbag(バッグ → バック)やbed(ベッド → ベット)のように無声化して有声阻害音の生起が避けられるケースが目立ちます。

そんなわけで、「ちょっと」をあえて「ちょっど」と発音するというのは、あえて難易度の高いことに挑戦しているような感じに見え、音声学的には不思議な感じがするのです。


参考文献・出典

本文中で取り上げたメンバーの発言や音声・図はすべて下記の動画の該当部分(具体的な個所は本文中に明記)から引用したもの。

本文中で引用した辞書等

金田一京助・柴田武・山田明雄・山田忠雄(編)(1989)『新明解国語辞典(第四版)』三省堂.

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