なにわTube【2022年11月8日】感想文

今回の動画は「あたかもハッピーサプライズ小説」ということでメンバーが即興で小説を作っていくという内容でした。

即興ではありますが、小説を朗読するような状況(学校で教科書を読むような、やや改まったシチュエーションに近い?)に置かれたためか、普段は関西弁バリバリで話しているメンバーも標準語になっていましたが、それでもところどころに関西弁の影響が出ていて、そこが個人的には一番興味深く見ることができました。

いつものように個人的に気になった点をいくつか挙げていきたいと思います。


冒頭・締めのあいさつ

最近は締めのあいさつが無かったり、冒頭あいさつの一部(「せーの」など)が無かったりと、完全にあいさつが出揃わないことが多くなっていますが、今回は冒頭・締めともにあいさつがあり平和な回だったと思います。

「どうも~」の発音が曖昧だったとか、「ちゅきちゅきー」をはっきり言わない傾向になってきているとか、細かいことを言い出せばキリがないので、そういった点には触れないでおきます。


標準語の中に関西らしさを感じた点

5分25秒付近:ピカ

長尾くんが担当した部分の中に出てきた「そして、ピカはある宝を見つけたのだった。」という一文に出てきた「ピカ」ですが、これまでにも何度が登場した「母音の無声化」の条件で言うと、pikaのiは前後を無声子音に挟まれているので無声化してもおかしくないところ、全く無声化していませんでした。

また、無声化していないというだけでなく、音としては「ペカ」っぽく(とは言っても、完全に「ペカ」ではなく、「ピカ」と「ペカ」の中間程度?)聞こえるような、独特な音になっていました。

当該部分(「ピカは」)の音声(なにわTube動画 2022年11月8日5分25秒付近) ※再生時は音量にご注意ください

音響分析をしてみると、もともとの発音自体がややeよりのiになっているという印象ですが、知覚的な面で「無声化が起こる環境なのだから、iが出てくるはずがない。よってこれはiではなくてeだ」というように音素と異音の条件分布に基づく錯聴(←音声知覚上非常にありふれた現象)が生じる条件も揃っているので、発音した側の要因と聞き手側の要因の双方が関与する可能性がありそうです。

ところで、管理人はもともと名古屋出身ですが、大学院進学の関係で関西に6年ほど住んだことがあり、その際、スーパーでヒレ肉やヒレカツのことを「ヘレ肉」・「ヘレカツ」のような表記を見て驚いた経験がありますが、「ピカ」が「ペカ」っぽく聞こえるというのも表面上はi → eの変化で共通しているので、何か関連があれば面白いなとは思いました(ただ、この点についてはこじつけなので断言する勇気はありません)。

さて、母音の話が出たので少し真面目な音声学の話をしておきましょう。

音声学では母音を分類するために「口の開き具合」「舌の前後の位置」「唇の丸め具合」という3つの基準を設けています。

日本語の5母音に限ると、口が最も大きく開くのは a、口の開きが狭いのは i, uで、中間程度なのがe, oです。

また、舌の前後の位置については、iとeが前、oとuが後ろとなります(eとoを交互に繰り返し発音すると、eの時には舌が前寄りの方向に出るのに対し、oの時には逆に口の奥の方に引っ込む感じになるのが分かるかと思います)。

aについては、日本語の場合はaの守備範囲が広いので舌が前寄りでも後ろ寄りでもaはaですが、理論的な観点等からaをo, uと同じ後舌に分類する研究者が多いように思います。

唇の丸め具合に関しては、oは円唇(唇が前に突き出たような感じになる)、それ以外は非円唇と言われます(ただし、細かいことを言うとuについては円唇で言う人もいたりするし、舌の位置についても個人差があったりして面倒なことになりますが)。

ということで、上で述べてきたiとeの違いについて、音声学的な分類に基づいて説明するならば、i, eは舌の前後の位置、唇の丸め具合は共通(前舌・非円唇)で、口の開き具合の点で異なる(iよりもeの方が口の開き具合が大きめ)ということになります。

11分55秒付近:ダニエル

藤原氏の担当部分に出てきた人物名「ダニエル」ですが、恐らく標準語では「ニエル」のようにダだけ高くあとは低いトーン(いわゆる、頭高型)で読まれるはずです。

藤原氏には珍しく標準語で小説を朗読していますが、なぜか「ダニエル」の部分だけ「エル」のように発音されていて(恐らく、関西での発音?)、面白い感じになっていました。

当該部分(「ダニエルに」)の音声(なにわTube動画 2022年11月8日11分55秒付近) ※再生時は音量にご注意ください
当該部分(「するとダニエルは」)の音声(なにわTube動画 2022年11月8日11分59秒付近) ※再生時は音量にご注意ください

※ちなみに、「ダニエル役」という表現も出てきましたが、こちらについては「役」が付いたことで複合語アクセントになるので、大きな違和感はありませんでした。

その他

長くなりすぎるので割愛しますが、アクセントについては他にも15分57秒付近の「26歳」や16分25秒付近の「枕元」などにも関西弁らしいアクセントが顔を出しています。


ハスキーボイスと無声化

3分32秒付近:さとしが → さとしか

なにわ男子リーダーの大橋くんと言えば、ハスキーボイスであることで有名(?)ですが、彼の場合、声がガラガラでドスがきいた声というよりは、むしろかすれた感じの声(行き漏れのような音が少し聞こえる)で、個々の子音・母音の発音中に時折声帯振動が途絶えて別の音に聞こえたりすることがあるという感じの印象です。

音声学的には、発音時に声帯振動が生じる音を有声音、生じない音を無声音と呼びます。

発音中に声帯振動が途絶えるということは、本来有声音であった音が無声音になるということで、有声音の発音に苦労するということになります。

大橋くんの発音の中には、本来有声音だった音が無声音で発音されてしまうケースがちょくちょく見られますが、今回の動画にもあったので一つ紹介しておこうと思います。

当該部分(「さとしが」)の音声(なにわTube動画 2022年11月8日3分32秒付近) ※再生時は音量にご注意ください

子音の分類については、音声学では「声帯振動の有無」(声帯が振動するかどうか)、「調音点」(子音の発音が口腔内のどの部分で起こるか)、「調音法」(口腔内での狭め(=子音の発音)の程度)という3つの基準をもとに行います。

「さとしが」のケースの場合、「が」→「か」のように g → kという変化が生じていますが、上記の3つの基準に基づく分類ではgは「有声・軟口蓋・閉鎖音」でkは「無声・軟口蓋・閉鎖音」という分類がされます。

つまり、g → kという変化においては「有声/無声」という声帯振動に関わる部分のみが変化していることになります。

発音の瞬間に声帯振動が途絶えてしまったために有声音が出せず無声音になってしまったが、調音点・調音法は同じままなので、結果的にgと調音点・調音法を等しくするkに変化してしまったというわけですね。


参考文献・出典

本文中で取り上げたメンバーの発言や音声・図はすべて下記の動画の該当部分(具体的な個所は本文中に明記)から引用したもの。

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