今回の動画はメンバーが考える理想の夏休みを発表していくという内容で、「半年に1回くるほのぼの回」(西畑くん談)でした。
GoPro沈没の話が出てきたときは笑いましたが、あれは2022年2月1日の動画で出てきた話題だったので、気づけばもう1年半近く経過したんだなと、改めて時の流れの速さを感じました。
さて、今回もいろいろな興味深い発音が出てきていたのでいつものようにいくつか取り上げてみます。
先週はなにわTubeの更新がMVのみだったのであいさつはありませんでしたが、今回は期待通り冒頭・締めのあいさつともに出てきました。
ほのぼの回ということもあってか通常通りのあいさつでしたが、毎週あいさつを確認するのが習慣になってしまっているせいか、あいさつを聞くと気持ちが落ち着く感じがするようになりつつあります。
このサイト内では過去に何度も出てきたことのある「母音の無声化」ですが、ちょうど今週の音声学の授業で無声化を扱う予定なのと、今回は無声化のせいで聞き取りが困難になってしまったと思われる例が出てきたので取り上げます。
まずは当該部分の音声を例として挙げておきます。
発音を文字を書き起こすと「まあ2枚、3枚と、えー複数枚書いていただいても構いません」のような感じになるかと思いますが、最初にぱっと音だけ聞いた時には「複数枚」の部分が何と言っているか分からず、前後の文脈も含めて何度か聞きなおして初めて何と言っているか把握することができました(音の聞こえ方は再生機器(イヤホン vs. スピーカー)や周囲の環境にも影響されますが、管理人に限らず、音のみでは「複数枚」には聞こえないと感じる人も結構いるのではないかと思います)。
さて、「複数枚」が聞きとりにくい理由ですが、ここで関係してくるのが母音の無声化の現象です。
日本語の典型的な母音の無声化の環境は、母音iやuが無声子音に挟まれた環境です(無声化についてなじみがないという方は用語解説のページを用意していますのでご参照ください)。
「複数枚」(hukusuumai)の発音では、h(厳密には両唇摩擦音のɸですが、ここではhとします), k, sはともに無声子音なので、hukusuumaiの下線部の母音はともに無声化が起こる環境にあることになり、実際の発音においてはhukusuumai → hksuumaiのように母音が抜け落ちて子音のみが続くような音声が生じてしまいます。
子音というのは聞こえ度が低く単独ではあまり目立たない存在で、容易に聞こえなくなってしまいやすいので、これが理由で「複数枚」が聞き取りにくくなってしまったと考えられます。
大橋くんが発したインパクトのある言い間違いです。
「こうごきたい(乞うご期待)」→「ごうこきたい」と先頭の「こ」と3文字目に出てくる「ご」の位置が入れ替わって生じていると解釈でき、パターン的には音位転換に分類できる例のように思われます(参考までに当該部分の音声を以下に示します)。
「音位転換」については以前にも取り上げたことがあったと思いますが、改めて書くと、前後の要素が入れ替わるような変化のことを指します。
『英語学・言語学用語辞典』のように隣接する2音間の位置の交代(英語の歴史的音変化を例にとると、wæps → waspなどのようなパターン)という定義もあれば、窪薗(1999)のように直接隣接しない2音間の交代(または音節やモーラなど子音・母音よりも大きな要素間の交代)も含めてmetathesisという用語を使う場合もありますが、ここでは後者の用い方を採用しています。
ちなみに、「こうごきたい」→「ごうこきたい」の例においては、「こ」と「ご」の間の入れ替わり([ko]o[go]kitai → [go]o[ko]kitai のように「子音+母音」の単位で位置の交代が生じた)と捉える以外に、kとgの間の入れ替わり、すなわち [k]oo[g]okitai → [g]oo[k]okitai のように音位転換が子音を単位として起こった可能性もあり、どちらなのかを断定することはできません。
ただ、窪薗(1999)によると日本人の場合は「子音+母音」を単位として交代エラーを起こすことが多い(一方、英語の場合はNew York → Yew Norkのように頭子音同士の交換が多い)とされているので、その記述に従うならば「子音+母音」の単位で生じた可能性が高いということになるでしょうか。
こちらは大西くんの発表の中で出てきた発音ですが、大橋くんの「ごうこきたい」に負けないほどのインパクトがありました(こちらも当該部分の音声を以下に挙げます)。
大橋くんの「ごうこきたい」については上述のとおり音声学的観点から一応の説明を与えることができるように思われるのですが、大西くんの「途中げーしゃ」については、これが言い間違いであるという前提で考えたとき、言い間違いの理由がぱっと思いつきませんでした。
メンバーの名前の呼び方に見られるような「きょうへい」→「きょへ」とか「りゅうせい」→「りゅちぇ」のように長音が無くなって短母音になる変化はよくある気がしますが、「げしゃ」が「げーしゃ」になるのは短母音が長母音になっているのでこれとはまったく逆の変化です。
関西弁では「手」→「てー」のように1モーラ(拍)の単語が2モーラになる現象もありますが、2モーラ以上の単語でしかも複合語なので、これも関連がなさそうです。
で、当該部分の音声を聞きなおしてみると、「げ」が伸びて「げー」になっているだけでなく、「しゃ」も「しゃー」と伸びているので、「途中」の部分は通常の発話速度で話していたのに対し、「下車」の部分で急に発話速度がゆっくりになったから「げ」が長く伸びて聞こえた(※発話速度がゆっくりになると、同じ「げ」でも音が長く発音されることになり、ゆっくりな発話の中の短母音は早い発話の中の長母音と同じくらいの長さになり得るため)という可能性もあるかなとも思いました。
ただ、「しゃ」が伸びているのは恐らくフレーズ末での母音延長現象だと思われるので、理屈上は上記のような説明も可能というだけであって、自分で書いていてこの説明には無理があるなと思います。
「途中げーしゃ」という発音について、メンバーが誰も突っ込んでいないことからすると、もしかすると言い間違いではなく「下車」のことを「げーしゃ」というのが若者の間で流行っているなど、何らかの別の要因があるのかもしれませんが、結局よく分かりません。
どなたかご存じでしたらぜひ教えてください。
本文中で取り上げたメンバーの発言や音声・図はすべて下記の動画の該当部分(具体的な個所は本文中に明記)から引用したもの。
音位転換の用語や語例に関連して本文中で引用した文献
・窪薗晴夫(1999)『日本語の音声』岩波書店.
・中野弘三・服部義弘・小野隆啓・西原哲雄(監修)(2015)『英語学・言語学用語辞典』開拓社.