今回は「16personalities性格診断テスト」なる性格診断テストをするという内容でした。
いつものように音声学的に気になった点を挙げてみたいと思います。
今回は久しぶりに冒頭あいさつ、締めのあいさつが1つの動画内で両方とも出てきていました(両方とも出てくるのは2カ月ぶりくらいのことです)。
今回の冒頭あいさつについては、「せーの」が終わってから「ちゅきちゅきー」が出てくるまでの時間がいつもと比べてかなり短かったのが特徴的で、今回たまたまだったのか、これ以降もこの変化が定着していくのか、注視したいところです。
一方、締めのあいさつについては普段とそれほど変わらなかったかなと言う印象です。
西畑くんの性格診断結果の中で、「どっちかって言うと、陰キャ」というセリフがありました。
この「陰キャ」ですが、「いんきゃ」(太字が高いトーン、下線部が低いトーンを表しています。高いトーンを●、低いトーンを○で表すと、○●○○となります)というアクセントで発音されているようでした。
「されているようでした」というのは、最初が低いトーンかどうかが若干怪しい感じもしたためで、最初に聞いた時は低いトーンに聞こえましたが、これを書くにあたって間違っていないか再度繰り返し聞いて確認していたら、何回かに一回くらい高いトーンで始まっているように感じる場合もあったからです(音響分析をしてみると「い」から「ん」に向けてF0が上昇はしますが、上昇度合いが緩やかだったので実際には低と高の中間的な音になっていて、これが聞くたびに違って聞こえる場合があることの一因になっているようでした)。
以下は「いんきゃ」と発音されているものとしての話ですが、このように「ん」だけが高いトーンになる場合、高いトーンから低いトーンに下がる部分にアクセント核があると見なせるので、「ん」がアクセント核を担うと言い換えることができます。
これ、言語の一般的なアクセントの体系からするとかなり珍しいパターンに当たります。
というのも、音声学・音韻論の観点では、アクセントは基本的に母音が担うもので、子音が単独でアクセントを担うことは基本的にないと考えるので、「ん」(←子音)だけがアクセント核を担うという状況がなかなか想定できないためです。
東京方言をはじめ、大半の日本の方言では「ん」が単独でアクセント核を担うということはまず起こらないのですが、ある種の奇跡が起こってしまったのが関西方言であり、例えば『京阪系アクセント辞典』(中井2002)を見ると、インド、玄関(げんかん)など「ん」が単独でアクセント核を担うタイプの語は「いんきゃ」以外にもそれなりの数が存在しています。
もし関西弁を聞く機会があれば、その時は四葉のクローバー探し的なノリでぜひこうした関西方言特有の珍しいパターンに耳を向けてみるのも楽しいかと思います。
補足など
◆関西方言にも言語一般的な制約(子音はアクセントを担わない)はかかってくるため、「ん」が単独でアクセント核を担うようなパターンの単語は、他のアクセントパターンの単語の出現率と比較すると関西方言の中で見ても少数派です。昨今では標準語の影響でこうした関西方言特有のパターンがますます見られにくくなっていくであろうことを考えると、そのうち消滅してしまう可能性も普通にあり得そうです。関西方言に関心がある人は、聞けるうちにいっぱい聞いておくのが良いかもしれません。
◆「ん」というのは特殊モーラ(または特殊拍)と呼ばれるタイプの音に当たりますが、同じ特殊モーラに分類される長音(伸ばす音)も通常それ単体ではアクセント核を担わないタイプの音です。ただ、関西弁ではこの長音もアクセント核を担うことができ、『京阪系アクセント辞典』によると長音だけが高いトーンを持つ語(後悔(こーかい)、宗教(しゅーきょー))も存在します。このようなパターンも、他の地域ではあまり見られない特殊なタイプのアクセントに当たります。
本文中で取り上げたメンバーの発言や音声・図はすべて下記の動画の該当部分(具体的な個所は本文中に明記)から引用したもの。
アクセントの辞典関係
中井幸比古(編著)(2002)『京阪系アクセント辞典』勉誠出版.