もともとなかった場所に母音が入れられる現象を「母音挿入」と言い、その時に入れられる母音のことを「挿入母音」と呼びます。
典型的なのは、外国語の単語を借用する際、その言語で許容される音節構造にするために母音挿入が生じるというパターンです。
例えば、以下の表に示した通り、英語から日本語に取り入られれた外来語(いわゆるカタカナ語)を見てみると、英語の単語の中で(綴りではなく、発音面で見たときに)子音が連続している個所や単語の最後に子音が来ている場合などに、本来なかったはずの母音uやoなどが挿入されているのが分かります。
綴り | 発音 |
diamond smile ↓ ダイヤモンドスマイル | daɪəmənd smaɪl ↓ daiyamondo sumairu |
emerald ↓ エメラルド | emərəld ↓ emerarudo |
seven stars ↓ セブンスターズ | sevn stɑːrz ↓ sebun sutaazu |
timeless love ↓ タイムレスラブ | taɪmləs lʌv ↓ taimuresu rabu |
このタイプの母音挿入は、もともとの単語に日本語では許容されない構造(複数の子音の連続や、単語末の子音)があった場合、日本語として許容される構造に変化させるために生じたものだと考えられます。
母音の前後にいくつまで子音を付けることができるかは言語によって異なり、英語であればstrictやasksなど、母音の前後に複数の子音が付いても問題ありませんが、日本語の場合は母音の前に子音が複数付くことは原則としてなく、母音の後ろに来れる子音は「ん」「っ」のみと、許容範囲が狭くなっています。
取り入れようとした単語の中に子音の連続や単語末に子音が含まれていた場合、日本語で許容される構造にするための手段としては、
- 元の単語に含まれている子音を削除することによって子音の連続や単語末の子音が生じるのを避ける
- 母音を挿入することで子音の連続や単語末の子音が生じるのを避ける
といった方法が考えられますが、現在の日本語では母音を挿入する解決法を採用しているというわけですね。