今回はメンバー7人による東京にちなんだ以心伝心ゲームをする内容でした。
普段なにわTube動画を見るときは発音等の面で気になった部分を書き留めていて、日によっては何十個も気になる点が出てきて動画に集中しにくいときもありますが、今回は「むむっ?!」という箇所があまりなかったので落ち着いて見ることができました。
いつものように、今回の動画の中に出てきた音声学に関係する話題(+個人的な関心を持って聞いている部分)について紹介していきます。
冒頭あいさつの「どうも~」は最近新型タイプの発音で出てくることが多かったですが、今回の動画の「どうも~」はぱっと聞いた限りでは従来型でした。
アクセントやイントネーション的にもこれまでによく出てきているパターンと類似しています。
ただ、「どうも~」の「も」のmは発音が曖昧になって「どー」のようになっていて、「どうも~」という発音からは逸脱が見られました(直前の「ちゅきちゅきー」の末尾と「どうも~」の出始めが重なっていて、かつ残響もすごいので聞き間違いかなとも思いましたが、映像で西畑くんの口元を見てもmの発音時に口が動いていないようなので、mの発音がほぼ省略されてしまっていると言っていいでしょう)。
ただ、このようにmが曖昧な発音になってしまうパターンについては以前からちょくちょく観察されていて、このサイトを立ち上げて感想文をアップし始めた時期までにはすでに存在していたパターンです。
また、以下のように音声学的にもこのような発音になる理由がはっきりしているので、今回のような発音は特殊なパターンだとは考えていません。
mは「両唇音」と言って唇を閉じて発音するタイプの音ですが、急いで発音しようとしたり何らかの理由で発音が緩んでしまうと唇を閉じる動作が完全には行われなくなることがあります。
例えば、mと同じ両唇音のbについて考えてみると、「あぶない」をゆっくり丁寧に発音してみると「ぶ」のbの発音時に上下の唇がくっつきますが、緊迫した状態で慌てて「あぶない!」と叫ぶような感じで速く発音するとbの時に唇が閉じずに発音されるかと思います(発音上そのようになっても、聴覚上は違和感なくbだと感じられます)。
また、歴史的にも、日本語の「は・ひ・ふ・へ・ほ」の子音は昔はpで発音されていて、唇を閉じるという動作が徐々に緩んでしまい、現在のようなhになったとされています(似たような変化は世界中の言語でよく見られます)。
以上のように、両唇音が緩むというのは珍しいことではなく、冒頭あいさつの「どうも~」のmが緩んでほとんど発音されなくなっているのは、大声で素早く発音している(←ゆっくり丁寧に発音するのと比べて発音が緩みやすい)点も考慮に入れれば、必ずしも不自然なことではないと考えられます。
その他
前回の動画で「せーの」の発音に変化が見られたので今回はどうなるかと思っていましたが、今回は「せーの」が省略されて「ちゅきちゅきー」から始まっていたので、変化については検証できませんでした。
「どうも~」についても従来型に戻っていて、かつ締めのあいさつも無かったので、あいさつに関しては平和(=特に言うことはない状態)だな、という印象でした。
「JR山手線の好きな駅名」というお題で、高橋くんが秋葉原のことを「秋は原」と書いていて、「あきわはら」のように読めるといじられているシーンがありました。
「秋葉原」と聞くと、管理人にとっては学生時代に授業で聞いた「秋葉原はもともと『あきばはら』だったのが『あきはばら』という風に発音が変わった」という話が頭に浮かびます。
秋葉原という単語は、「秋葉(あきば) + 原」という構造としても捉えることができるし、「秋 + 葉原(はばら)」という構造としても捉えることができるので、「あきばはら」も「あきはばら」もどちらもあり得ない発音ではなさそうで、地名あるあるですが地元の人以外からするとどの読み方が正解かが分からないという状況になってもおかしくはなさそうです。
そんなわけで、本来は「間違い」であったはずの「あきはばら」という発音が徐々に定着し、現在に至ったということでしょうかね?
さて、そんな秋葉原ですが、音声学・音韻論の観点からすると、「あきばはら → あきはばら」という音の変化は近くにある音が入れ替わってしまう「音位転換」(metathesis)という現象の一種だと考えられます。(※『英語学・言語学用語辞典』の定義では、音位転換は「隣接する2音がその位置を交替する現象をいう」とありますが、母音を挟んでの子音の交替、もしくは隣接する2つの音節の交替と解釈しています。)
ここまでの話を読んでピンときた人もいるかもしれませんが、今回の動画内で高橋くんが秋葉原を「あきはらば」と言い間違っている場面があり、これもまさに音位転換の例です。
単なるいい間違いとしても面白いですが、個人的に興味深かったのが、「あきばはら → あきはばら → あきはらば」と並べて見ると、「ば」の位置がどんどん右にずれて行っているという点です。
現時点では「あきはらば」は明らかに言い間違いと見なされるでしょうが、本来間違いであった「あきはばら」が時を経て定着したように、この「あきはらば」も未来のいつかの時点では正しい言い方として定着するかも(そうなるとしたら、高橋くんは未来を先取りしているのかも)?・・・というような観点から改めて動画を見てみるのも楽しいかもしれません。
その他
音声学とは全く関係ないですが、「八王子で連想できる芸能人」というお題の答えとして大西くんが書いた「ヒロミさん」が「ヒロ三さん」(ひろぞうさん?)になっていた点が個人的にはツボでした。
中野弘三・服部義弘・小野隆啓・西原哲雄(監修)(2015)『英語学・言語学用語辞典』開拓社.
本文中で取り上げたメンバーの発言や音声・図はすべて下記の動画の該当部分(具体的な個所は本文中に明記)から引用したもの。
用語に関する文献
- 中野弘三・服部義弘・小野隆啓・西原哲雄(監修)(2015)『英語学・言語学用語辞典』開拓社.