今回は7人旅シリーズの第8回目ということで宴会芸が繰り広げられるという内容で、いつもと同様、音声学に関係する話題がたくさん登場していました。
新学期が始まり、ちょうど授業でアクセントについての話題を取り上げるタイミングでもあるので、今回はアクセント関係の話題を取り上げてみたいと思います(メンバーの細かな発音に関することとは離れますが、動画の内容から発想を飛ばしました)。
その前にまずは恒例となっている冒頭・締めのあいさつの確認から。
今回も冒頭・締めのあいさつはありませんでした。
次回予告を見る感じでは次回が7人旅の最終回ということはなさそうなので、この状況は4月いっぱいまで続きそうな予感です。
さて、YouTube動画としての冒頭あいさつはありませんでしたが、宴会の中での7人漫才の始まりの部分で「せーの なにわ男子でーす」というあいさつがありました。
「せーの」の部分が西畑くんではなく藤原氏が言っているという点のほか、通常のなにわTubeでの冒頭あいさつよりも「なにわ男子でーす」の部分の発話速度が遅いのが印象的でした。
一般に、言い慣れていないときは発話速度が遅く、言い慣れてくると発話速度が上がってくる傾向があるもので、それを踏まえると、セリフの字面自体は普段のなにわTubeの中で毎回発言しているのと全く同じなのに、状況の変化(動画の冒頭あいさつではなく7人漫才)によってこれほど発話速度が異なるというのは面白い現象だと思いながら見ていました。
今回、宴会での出し物の中で「桃太郎」が出てきましたが、管理人は桃太郎と聞くと「桃太郎と金太郎のアクセント構造」という論文(文献情報はページ下部の「参考文献」を参照)が真っ先に思い浮かびます。
この論文は「〇太郎」という構造の名前のアクセントの法則について考察したもので、〇の部分に来る単語の音節構造等によって「〇太郎」のアクセント型に影響するという法則の存在を指摘しています。
簡単に言うと、「〇太郎」という構造の語のアクセント型としては、以下のように3つのパターンがありますが、単語の例を見て法則が分かるでしょうか?
①平板型(下がらない) | ②「太郎」の直前で下がる | ③「た」の直後で下がる |
きたろう こたろう やたろう きんたろう けんたろう こうたろう | ももたろう さくたろう いちたろう あおたろう あきたろう とりたろう | なにわたろう スマホたろう スープたろう らーめんたろう パソコンたろう |
音声学の概念を知らなくても、「太郎」の前に付いている要素(以下、前部要素とします)を見たとき、①よりも②、②よりも③の方が前部要素が長い単語になっていることには気づくかと思います。
が、①の「きんたろう」と「ももたろう」などを比べると、「きん」も「もも」も同じ長さなのに単語によって①になるか②になるかが変わっているように見えるかもしれません。
ここで登場するのが「音節」と「モーラ」という音声学・音韻論における概念です(※僕の音声学の授業を取っている人は、前期の後半で学習する概念なので今すぐ理解できなくても大丈夫です)。
モーラは「拍」とも呼ばれ、日本語の50音の1文字に相当します(例外はきゃ・きゅ・きょなどの拗音やファ・フィなどの小さい「ァィゥェォ」系の音で、「きゃ」や「ふぁ」で1カウント)。
モーラでカウントするのは、俳句の5・7・5を数えるときと全く同じ感覚です。
例えば、「なにわだんし」なら6文字なので6モーラ(な・に・わ・だ・ん・し)6文字なので6モーラ、「ファーストラブ」なら「ファ・ー・ス・ト・ラ・ブ」でこれも6モーラ、というような感じです。
一方、音節というのはやや複雑になります。
大抵の場合は「1モーラ=1音節」となりますが、日本語には「特殊拍」と呼ばれるタイプの音が3つ(長音「ー」(伸ばす音)、促音(小さい「っ」)、撥音「ん」)あり、これらの音がある場合、特殊拍とその前の音が1固まりとなって1音節とカウントします。
例で示すと、「なにわだんし」は音節で数えるなら「な・に・わ・だん・し」となり5音節になり、「ファーストラブ」は「ファー・ス・ト・ラ・ブ」のようになりこれも5音節となります(「ん」や「ー」、「っ」などの特殊拍があるとその分モーラで数えるよりも音節数が減る感じになります)。
で、先ほどの「〇太郎」のアクセントの話に戻すと、音節とモーラという概念を用いて「①になるのは前部要素が1音節である場合、②になるのは前部要素が2音節2モーラである場合、③になるのは前部要素が3モーラ以上である場合」という風に説明すると、先ほどの「きんたろう」と「ももたろう」の違いも説明できるようになります。
「きん」はモーラだと2モーラだが、「ん」があるので音節で数えると1音節となるのに対し、「もも」はモーラで数えると2モーラ、音節で数えると2音節となり、モーラ数は同じだが音節数が異なることになるわけですね。
日本人の場合、普段はモーラでカウントする癖がついていて「音節」でカウントすることはほぼ無いのですが、普段全く意識しないような「音節」という単位を無意識に理解していて、それがアクセント型の違いとしてはっきり反映されるというのはとても興味深いことですね。
本文中で取り上げたメンバーの発言や音声・図はすべて下記の動画の該当部分(具体的な個所は本文中に明記)から引用したもの。
「〇太郎」のアクセントについての論文
窪薗晴夫(1998)「金太郎と桃太郎のアクセント構造」『神戸言語学論叢』1: 35-49.