今回は映画『アナログ』にちなんだ内容の動画ということで、同映画に出演している藤原氏のソロ動画となっていました。
映画の公開日は2023年10月6日(金)で、なにわTubeの通常の更新日は火曜日なので、タイミング的に月曜日に動画がアップされるとは思っていなかったのでちょっと驚きました。
藤原氏と言えばなにわんだふるラジオ(毎週月曜放送)ということでそちらの放送日と合わせようとした(でも、今日の丈ラジではほとんどの時間オリックスの話しかしていませんでしたが・・・)とか、もしくは単に動画編集に時間がかかったからとか、そんなところですかね。
今回は藤原氏のソロ動画(動画タイトルには「初のソロ動画です」と書いてありましたが、2023年6月9日にも藤原氏のソロ動画がアップされていました。あちらはノーカウントなのでしょうか?)ということで動画自体はイレギュラーな感じですが、いつもと変わらず音声面に注目して何か書いていこうと思います。
ある単語が文脈の中で最初に出てくるときの発音は、2回目に出てくるときの発音とは異なることが知られています(Fowler & Housum, 1987)。
具体的に言うと、最初に出てきた時よりも2回目の方が単語の発音がいい加減になり、単語の長さ(発音に要する時間)が短くなります。
短くなるとは言っても、話し手自身にはその意識はなく、聞き手にとってもはっきり変わったとは分からない程度のものなので、コミュニケーション上支障が出るようなことはありません。
ただ、こうした気付かない程度の変化が積み重なっていくことで様々な言語(発音)の変化が生じていくと考えられる(例えば、あいさつのように日常的に何度も何度も繰り返し使う表現の場合、発音の緩み具合が激しくなり「おはようございます → おざーす」、「ありがとうございます → あざっす」のように、聞き手が認識できるほど発音が大きく変化するようになったりします)ので、とても重要な事柄だと個人的には思っています。
さて、今回の動画では藤原氏が一人で冒頭あいさつをしていますが、あいさつを撮り直しているので同じあいさつが2回出てくる形となっています。
これは「ある単語(今回は単語というより語句とか文になりますが・・・)が最初に出てくるときより2回目の方が発音が短くなる」という説を検証するのにぴったりではないか(しかも、一人で言っているので波形も見やすいぞ)、ということでやってみました。
1回目 | 2回目 | |
せーの | 808 ms (1229 ms) | 681 ms (1048 ms) |
ちゅきちゅきー | 990 ms (1516 ms) | 752 ms (1107 ms) |
どうも | 321 ms (646 ms) | 304 ms (557 ms) |
なにわ男子でーす | 1058 ms (882 ms) | 1220 ms (1002 ms) |
表中の数字の単位は ms(ミリセカンド)です(1 msが1000分の1秒なので、125 msであれば0.125秒となります)。
様々な事情により2パターンの方法で計測しているので、数値が2種類(括弧に入っているものといないもの)ありますがどちらかを見てもらえばOKです(細かいことを知りたい方は↓の補足をご覧ください)。
1回目と2回目で比較すると、「なにわ男子でーす」以外は1回目よりも2回目の方が全体に短くなっていることが分かります。
「なにわ男子でーす」については逆のパターンになっていますが、これは2回目の「でー」の部分がかなり長かったことによるものです。
「でー」(正確には、deのe)を除外して「なにわ男子」の部分の長さを測ると1回目が595 ms程度、2回目が523 ms程度となり、やはり1回目よりも2回目の方が短くなっていました。
ということで、今回の藤原氏の発音(2回の冒頭あいさつ)においても、Fowler & Housum (1987)で言われているように1回目よりも2回目の発音の方が短くなるという傾向が観察されたことになります。
ちなみに実際の音声はこちらです。
微妙な違いを意識して聞くと、若干違っているのが分かるのではないかと思います。
藤原氏による冒頭あいさつ
Take 1
Take 2
なお、上記は語句の長さ(発音に要する時間)に関する話ですが、Take 1とTake 2では声の高さもかなり違っています。
Take 1と比べてTake 2は前半はやや低めで始まり後半の方に向けて声が高くなっていく感じになっているので、全体に早口になっているという特徴と合わさって、Take 2の方が勢いがあるように感じられたかもしれませんね。
補足:表中の値について
- 録音場所の問題だと思いますが残響がすごくて発音の終了時点を特定するのが難しい面があったので、各語句の長さの計測値には若干怪しいところがあります。そこで、「せーの」「ちゅきちゅきー」「どうも」については計測区間を各語句の開始時点から終了時点ではなく、各語句の開始時点から次の語句の開始時点までとした場合の値も入れています(表中の括弧内の数値がこれです)。こちらの方が計測誤差が少ないですが、語句と語句の間のポーズ(息継ぎなど)の長さに影響される面があるので、適切な指標かと言われるとこれはこれで微妙なところではあります。
- また、「なにわ男子でーす」については、計測区間を「な」の開始時点から「す」の終了時点までとしています。ただ、Take 1ではその直後に「よろしくお願いします」と別の発話が続くのに対し、Take 2では「なにわ男子でーす」で発話が終了していて後続環境が異なるうえに、「す」の母音が無声化していて摩擦成分のみ(終了時点を特定がしにくい)となっているので、やはり計測値にやや怪しい面があります。なので、より計測が安定するようにするため、「なにわ男子でーす」に関しては「なにわ男子でー」までを計測区間とした場合の値を( )に表示しています(「なにわ男子でーす」だけ他と違って括弧の中の値が小さくなっているのはそのためです)。
本文中で取り上げたメンバーの発言や音声・図はすべて下記の動画の該当部分(具体的な個所は本文中に明記)から引用したもの。
本文中で引用した文献
Fowler, C. A. & Housum, J. (1987). Talkers’ signaling of “new and “old” words in speech and listeners’ perception and use of the distinction. Journal of Memory and Language, 26, 489-504.