今回は前回の動画の後半戦ということで、「行ってみたい旅行先」と「もう1度観たいコンサート」というお題で各メンバーが選ぶベスト3を発表するという内容でした。
今回も色々と興味深い発音が出てきていたので、いくつか取り上げてみます。
今回は前回からの続きの内容なので、冒頭あいさつはなく締めのあいさつのみでした。
ちなみに、前回の動画に関しては「締めのあいさつが無かったので珍しい」的なことを書きましたが、次回に続くということであれば、通常の仕様ということになるので、何も珍しくはなかったですね(前回の動画の最後に「次回 後半戦」のような表示があったのに見落としてしまっていました)。
長尾くんの回答の中に「インド」がありましたが、この「インド」の発音に関西弁らしい特徴が表れていたので取り上げてみましょう(なお、以下に例示した発音では「インドー」のように母音が伸びていますが、そこは無視することにします)。
長尾くんによる「インド」の発音
日本語のアクセントは「高さアクセント」で、高い音調と低い音調の組み合わせのパターンによって単語の弁別を行います(飴 vs. 雨など)。
どの単語がどのような音調のパターンになるかは方言次第ですが、大抵の方言では音の下がり目(高→低に変わる部分)が弁別機能に関して特に重要な機能を持っていると考えられています(音の下がり目は「アクセント核」とも呼ばれます。例えば、「にしはた」(※下線が低い音調、下線無しの太字部分が高い音調)であれば「低高低低」という音調となり、「し」が高くその直後で下がっているので、「し」にアクセント核があると解釈します)。
このアクセント核は、通常は特殊拍(「ん」、伸ばす音など)には付かない(付いたとしても、その特殊拍の前の音に移る)ので、特殊拍が高い音調となり、その直後で下がるパターンというのは出てこないのが普通です。
より厳密に言うと、音節単位で音調が付与される一部の方言では、ロンドンのように特殊拍の直後で下がることもありますが、特殊拍のみが高い音調となり、その直後で下がる(例:ロンドンのように「ン」だけ高い)ようなパターンは通常生じません。
・・・が、関西弁ではなぜかこのレアなパターンが生じます。
その一例が「インド」で、関西弁では「インド」のように「ン」だけが高い音調で実現します(これは『京阪系アクセント辞典』でもそう記載されているほか、管理人が関西で大学院生をしていたころ、関西の人たちはみんなこのように発音していたのを覚えています。上で挙げた長尾くんの発音も完全にこの特徴を示しています)。
関西弁に限らず、どの方言でも若年層の発音は標準語化してきてしまっていて、各方言の特徴は失われつつありますが、この特殊拍にアクセント核が付くという関西弁の特徴に関しては比較的若い世代でも残っているような気がするので、これからも失われずに残っていてくれるといいなと思いますね。
藤原氏の回答の中で「3位」という単語が出てきていました。
この「3位」も関西弁のアクセントでは「さんい」となり、「インド」と同じく特殊拍にアクセント核が付くタイプの語になります。
この点だけでもかなり特徴的ですが、今回に限らず、藤原氏の「3位」の発音はさらに独特の特徴があり、「さんい」ではなく「さいー(※もともとあった「ん」が鼻音(=鼻に息が抜けることで出される音)なので、その影響で「い」は鼻母音的な音に変化)」のような発音になっています。
ただ、「さんい」が「さいー」のように音変化を起こしても、もともとの「低高低」という音調パターンは維持されているので、アクセントの面では「さんい」と同じく「さいー」(低高低)のようなアクセントになっています。
藤原氏による「3位」の発音
音声学・音韻論では子音や母音などは「分節音」、アクセントなどの音調は「超分節音」といってそれぞれ異なる次元に属する要素であると分類されていますが、「さんい」→「さいー」の変化に見られる特徴(分節音レベルでの変化があったからといって、超分節音レベルでの変化が起こるとは限らない)は、こうした分類の妥当性を裏付ける一例であるとも解釈できそうです。
なお、このような発音になるのは藤原氏だけでなく、今回の動画では道枝くんも同じような発音になっていたので、藤原氏個人の特徴ではなく、関西弁に見られる一般的な特徴なのかもしれません。
道枝くんによる「3位」の発音
本文中で取り上げたメンバーの発言や音声・図はすべて下記の動画の該当部分(具体的な個所は本文中に明記)から引用したもの。
関西弁のアクセントに関する出典
・中井幸比古(編著)(2002)『京阪系アクセント辞典』勉誠出版.