今回は「お願い配達さん!」(夕食出前選手権)ということで、全員同時にデリバリーを頼んで、到着したのが最も遅かった人が他のメンバー分も含めて自腹で支払うという内容でした。
普段はなにわTubeがアップされた日にすぐに動画を見て、発音を聞いて気になったところについて当日中~翌日中には感想文を書く習慣となっているのですが、今回は冒頭あいさつに大きな変化があり、それに関する調査を行っていたのでタイミングがかなり遅くなってしまいました。
調査結果がある程度まとまってきたので、以下、結果(の一部)をご紹介します。
なにわTube動画の冒頭あいさつは基本的に「せーの」「ちゅきちゅきー」「どうも~」「なにわ男子です」という4つのパートから成っています。
今回はこのうち「どうも~」のパートに大きな異変がありました。
通常、「どうも~」の部分は西畑くんが発音していて、これまでも若干のアレンジ(「どぅおも」みたいな発音など)が入ることはありつつも、基本的には「どうも~」から極端に逸脱した発音はありませんでしたが、今回はいつもと違っていました。
通常とは明らかに異なる発音だったことは、メンバーたちからのツッコミからも明らかです。
今回は冒頭あいさつが2回あり、そのどちらとも「どうも~」の発音が通常とは異なっていたのですが、ここでは1回目の方の発音について取り上げることにします。
なお、締めのあいさつについては普段とそれほど大きく変わるところはなかったので、省略します。
この日の動画1回目の冒頭あいさつでは、「どうも~」の部分の発音(当該部分の音声を以下に例示しています)が普段とは異なっていて、その点自体もとても気にはなったのですが、それ以上に気になったのが、この部分のテロップで「ジン」と表記されていたことでした。
子音や母音の発音が微妙な感じの発音だったので、聞く人によって聞こえ方(そして表記)が異なるのは仕方ないことではありますが、管理人が動画を見る限りでは「デュン」のように聞こえ、少なくとも「ジン」とは聞こえなかったので、他の人(音声学者ではない、一般の人)にとってはどのように聞こえるのか、とても気になってしまったので以下のような調査を実施しました。
今回の調査では、日本語を母語とする若者(20歳前後の大学生)113名を対象としました。
協力してくれた人たちに依頼したタスクの内容は、「当該部分の音を聞いて日本語のかな文字で表記してもらう」というものでした。
聞いてもらう音声は、管理人が当該部分の音声のみを抜き出して用意したもの(「ちゅきちゅきー」や「なにわ男子です」などの前後の要素は含まれない)で、こちらで再生してそれを聞いてもらい、Googleフォームに回答を入力してもらう形式としました。
得られた回答(かな文字で書かれたもの)は管理人の方で発音記号の表記に変換し、子音別・母音別にカウントしました。
なお、母音については、「ディイイイン」のように同じ母音が長く発音されているように聞こえたことを示唆する表記が多数見られ、これをどのように扱うかで結果が大きく異なってくると思われましたが、今回は「ジン」という表記との比較ということで「語頭の子音が何であるか」と「母音が何であるか」に焦点を絞ることとし、長さは考慮対象からは除外して、長母音や同一母音の連続は1つの母音と見なしてカウントすることとしました。
以下では、「語頭の子音が何であるか」と「母音が何であるか」という観点に分け、それぞれ結果を提示します。
なお、録音現場で発音されたものを直接聞くのと、録音されてYouTubeにアップされた音を聞くのでは聞こえ方が異なる可能性は十分に考えられ、また、再生機器やその他の要因によっても聞こえ方は変わり得るので、この調査結果をもってテロップを入れた人の記述がおかしいなどという議論に結び付けることはできません(そもそも、テロップを入れた人の方が上流に近い音声を聞いているはずです)ので、以下の結果をご覧になる際(また、解釈する際)にはその点にご留意ください。
語頭の子音について
語頭の子音に関する集計結果を表1に示します(ここには4種類の子音しか示されていませんが、それ以外の子音は出現しなかったか、もしくは出現数が2以下と極めて少なかったため省略しています)。
最も多かったのはdで、その次がʒ(ジ)、そしてzが続くという結果でした。
子音の分類に関する3つの基準(声帯振動の有無、調音点、調音法)の観点からは、出現数が多かった音に共通する特徴として、調音点が「歯茎」またはその付近であることと、阻害音であるという点が挙げられるでしょうか。
なお、ズィンのような回答がかなりあったので、集計の際には「ジン」と「ズィン」を分け、前者はʒ(またはdʒ)、後者はzと便宜上分けていますが、音素レベルで考えるとʒとzは1つにまとめることもでき、その場合は合計が53となり最大となります。
どちらを取るかは理論的立場や解釈次第となりますが、とりあえずここでは異音レベルの発音に基づく方法を採ることとしています。
語頭の子音(表記の例) | 回答の例 | 出現数 |
d | ディン、デン | 49 |
ʒ (dʒ) | ジン、ジュン | 31 |
z | ズィン、ズン、ゼン | 22 |
t | ティン、テゥン | 8 |
母音について
続いて、母音の集計結果を表2に示します。
表2から、iが最も多く、2番手がe、次いでuとなり、aやoはほとんど出てこないことが分かります(※母音のトータル数が調査対象人数を超えていますが、これは「ディエン」のように1つの回答に母音が2つ以上含まれることがあったためです)。
回答にi, u, eが多かったこと、また、日本語のuは英語やその他の言語と比べて舌が前寄りで発音されがちであるという特徴があることから、母音の分類方法に基づいて考えると、ここで対象としている「どうも~」の変種は、舌の位置が前寄りであり、口の開き具合がそれほど大きくない音として発音されていた可能性が高いと言えそうですね。
母音 | 出現数 |
a | 2 |
i | 67 |
u | 24 |
e | 50 |
o | 1 |
その他
ここまで語頭の子音と母音について見てきましたが、その他に特徴的だったのは、大半の回答者が単語末に「ン」があると判断していたという点です。
まとめ
以上のことから、日本語母語話者の聞き取り調査結果によると、今回の「どうも~」の変種の発音は、「ディン」とするのが最も音の印象に近いと言えそうです。
もちろん、調査結果にも表れていた通り、人によって子音や母音の聞こえ方はかなりばらつきがあるので、「ディン」以外の音に聞こえるという人もいるかと思います。
ただし、その場合でも、上述のように語頭の子音であれば「(硬口蓋)歯茎音」や「阻害音」のグループの音として聞こえる(少なくとも、mには聞こえない)とか、母音は前舌という特徴を持つ母音に聞こえる(少なくともa, oには聞こえない)といった点は多くの人が共有できる感覚ではないかと思います。
つまり、音声学的な概念や分類方法の知識があると、こういったところでも特徴を把握して理解するのに役立つと言えるわけですね。
ところで、今回は1回目の冒頭あいさつの「どうも~」の変種に関する話ということでしたが、同じ動画内での2回目の冒頭あいさつに出てきた「どうも~」の方もなかなか表現しにくい独特の音で興味深いものでした(こちらにはテロップが付けられていませんでしたが、編集担当の人もどう表記していいかわからず困って諦めてしまったのかもしれません)。
今回は取り上げることができませんでしたが、こちらについても調査はしたので、音声学の授業など、別の機会に活用したいと思っています。