今回はメンバーが自分へのご褒美を発表するという内容でした。
今回も色々と興味深い発音が出てきていましたが、ちょうど音声学の授業で扱った話題に関連する内容が出てきたので、それを取り上げてみようかと思います。
今回は冒頭・締めのあいさつ共に通常通り出てきていました。
これまでは冒頭あいさつ等にBGMや効果音が被さってしまって計測がしにくい(開始・終了時点等が正確に判断できない)とぼやくことが多かったのですが、今回はBGM無しで効果音の位置も計測の邪魔になりにくい位置に入っていて、とてもありがたい感じでした(次回以降もこの状態が続くことを期待します)。
「バッグ」が「バック」と発音されがちだったり、「ベッド」が「ベット」と発音されがちだったりするように、促音(=小さい「っ」)の後に濁音が来る場合、濁点が取れるという現象がしばしば起こります。
今回の動画では、大橋君の自分へのご褒美の話の中で「ヘッドスパ」という単語が出てきていましたが、この発音を聞いてみると、上記の「バッグ → バック」等の例と同様、「ヘットスパ」のように濁点が取れた発音になっていました。
大橋くんによる「ヘッドスパ」の発音
西畑くんによる「ヘッドスパ」の発音
大橋君自身、文字で書くときは「ヘットスパ」ではなく「ヘッドスパ」と濁点付きで書いているのに、なぜ「ヘットスパ」と発音しているのでしょうか?
「ヘッド → ヘット」のように「促音+濁音」において促音の後ろの濁音が取れてしまう現象は、単純に言えば、d(有声・歯茎・閉鎖音)がt(無声・歯茎・閉鎖音)になっているので、有声音が無声音に変化する現象だと言えます(「バッグ → バック」についてはg(有声・軟口蓋・閉鎖音)からk(無声・軟口蓋・閉鎖音)への変化となり、「ヘッド → ヘット」と同様に有声音が無声音に変化しています。なお、有声音、無声音や歯茎、軟口蓋などの用語については子音の分類に関する用語解説ページを必要に応じてご参照ください)。
音声学的には、この「促音+濁音」という音は有声促音とか有声重子音(※厳密には「有声阻害音の重子音」ですがここでは有声重子音とします)というタイプの音に該当します。
重子音というのは同じ子音が2重に重なったもので、子音が1つだけの場合と比べて子音部分が長く発音されるという特徴があります。
また、有声音というのは発音中に声帯が振動するタイプの音を指します。
「有声重子音」というのは重子音でかつ有声音ということになるので、重子音であるため子音部分の発音が長く、有声音でもあるのでその子音を発音している間ずっと声帯を振動させて発音する音ということになるのですが、実はこの有声重子音というのは極めて発音がしにくい音なのです。
理由としては以下のような感じです。
まず、子音というのは、口の中のどこかで狭めを作ることにより、肺から吐き出される息の流れを妨げることで作り出される音です。
重子音は子音部分を長く発音するので、重子音の発音の際には息の流れを妨げる動作が長時間行われることになります。
一方、有声音というのは声帯が振動することで作り出される音ですが、声帯が振動するためには肺からの息の流れが必要となり、息の流れがストップすると声帯も振動できなくなります。
肺から口(出口)に向かって息が流れていこうとしても、口のところが狭くなっていたらその分だけ息は出ていきにくくなるので、口の中の狭めの度合いが強くなるほど、息が自由に流れにくくなり、結果として声帯も振動しにくくなるので、口の中で狭めを作ることと声帯が振動することはそもそも共起しにくい事柄だと言えます。
特に、「ヘッド」(dd)や「バッグ」(gg)など、閉鎖音から成る重子音では子音の発音時に口の中のどこかが完全に閉じ、息の流れが完全に遮断されてしまう状況が長時間続くことになるので、声帯が振動するためのエネルギー源である息の流れが完全に止まった状態になってしまい、声帯が振動しない音(=無声音)にならざるを得なくなります。
ということで、今回の動画の中では大橋くんも西畑くんも「ヘットスパ」のような発音をしていましたが、これは以上のような理由で子音の発音中の声帯振動の維持が困難であるため、やむなく無声化してしまったのだと解釈できるわけです。
また、以下に挙げた音声の例のように、同じ西畑くんの発音であっても、発話速度が速い場合にはそこまで顕著な無声化は起きておらず、「ヘッド」と「ヘット」の間くらいかな?という感じです(同じく、発話速度が速かった藤原氏の発音でもそこまで明らかな無声化は起こっていないような印象を受けます)が、発話速度が速くなると重子音の発音にかかる時間もその分短くなり、ゆっくり発音するときと比べると息の流れが妨げられる時間が短くなるので、無声化の度合いも相対的に弱くなり、無声化がそこまで目立たなかったというようなところでしょうか。
無声化がそこまで顕著ではない「ヘッドスパ」の例
本文中で取り上げたメンバーの発言や音声・図はすべて下記の動画の該当部分(具体的な個所は本文中に明記)から引用したもの。