今回は東京と大阪の違いを28個挙げるという内容でした。
毎度のことですが、今回の動画でも音声学的に色々と興味深い発音が出てきていたのでいくつか挙げてみます。
前回の動画では冒頭のあいさつがありませんでしたが、今回は冒頭・締めのあいさつ共に出てきていました。
冒頭あいさつは「せーの」「ちゅきちゅきー」「どうも~」「なにわ男子です」という4つのパートからなりますが、今回の冒頭あいさつの特徴として、最初の「せーの」が「てーの」のような発音になっていたという点が挙げられます。
「てーの」っぽい「せーの」
この「てーの」っぽい発音、最近口がゆるゆるになってきた西畑くんが言い間違ったのだと思う人もいるかもしれませんが、人間の音声の知覚の観点からは全く別の要因によって起こった現象であると考えられます。
突然ですが、「さかな」(sakana)のように語頭がsで始まっている単語について、sの音を取り除いてしまうとどう聞こえると思いますか?
これは毎年大学での音声学の授業や高校生向けの模擬授業などで扱うトピックなのですが、[sakana]が[akana]になるということで、「あかな」だと答える人が大半です。
ただ、実際にsakanaからsを取り除いたうえで再生して聞いてみると予想通りにはならず、「たかな」のようにsではない別の子音が聞こえるのです(tに聞こえるという人が最も多いですが、個人差があり、dやθに聞こえるという人もいます。重要なのは、sを取ってしまっても「あかな」にはならず、母音の前に何らかの子音があるように聞こえるという点です)。
これは「さかな」に限らず、「さか」「さけ」「そと」など語頭にsがある単語なら同じようになります(もっと言うと、日本語に限ったことではないので、英語のsourなど語頭にsを含む単語でも同様のことが起こります)。
話を戻して、今回の冒頭あいさつの「せーの」ですが、音声を分析してみると、本来あったはずのsの音が(恐らく、動画編集の際の切り取りによって)無くなってしまっていることが分かりました。
つまり、今回の「せーの」は上記の話で言う「sの部分を削除した音声」になってしまっていて、結果的にsではなくtが聞こえることになり、「てーの」になってしまったと考えられるのです。
「せーの」が「てーの」のようになった理由は以上となりますが、そもそもなぜsがなくなるとtが聞こえるのかという点については、子音の3つの分類基準(声帯振動の有無、調音点、調音法)などの音声学の基礎を習得したうえで、音響音声学や知覚音声学の知識を学ぶと理解できるようになります。
とりあえず話を単純化して説明すると、声帯振動の有無、調音点、調音法といった子音に関する情報の一部は、子音の部分(「せーの」で言えば、[s]の音の部分)だけでなく隣接する母音の部分にも含まれているので、[s]が削られても直後のeに残っている[s]の情報をもとに、「無声」「歯茎」といったsが持つ情報の一部を聞き手が感じとり、eの前に何らかの子音があると感じ取られるということです。
このあたりの話はとても深くて面白いのですが、専門的な話になってしまうのでこのあたりにしておきます。
このサイト内では何度も出てきている母音の無声化ですが、今回は大西くんによる「団子食べてたら」という発言の中で母音のeが無声化している発音が出てきました。
団子食べてたら
母音の無声化に関する用語解説のページでも書いていますが、日本語では母音が前後を無声音に挟まれると無声化が起こる可能性があります(「たべてたら」の「てた」(teta)を見ると、母音のeが無声音であるtに前後を挟まれた状態になっています)。
この「母音が前後を無声子音に挟まれる」という条件が整ったとき、圧倒的に無声化が起こりやすいのはi, uで、それ以外の母音はi, uに比べると無声化しにくいと言われています。
ただし、発話速度などの条件次第ではi, u以外の母音も無声化することはあり、今回の「団子食べてたら」におけるeの無声化はそのことを示す良い例となっています。
なお、tの音がtʃっぽく(「たべちたら」のように)聞こえるという人もいるかもしれませんが、これはeが無声化したことで前の子音が補完的に長くなったために起こったことだろうと思います。
本文中で取り上げたメンバーの発言や音声・図はすべて下記の動画の該当部分(具体的な個所は本文中に明記)から引用したもの。