今回は「気配斬り」の変形バージョンである「気配鳴らし」をするという内容で、シュールな戦いが繰り広げられていました。
「気配斬り」も「気配鳴らし」も個人的には初めて聞いたワードですが、どちらにしても目隠しした状態で気配を頼りに相手を斬ったり、(風鈴を)鳴らしたりする競技(?)のようですね。
今回はちょうど目隠し(視覚情報の遮断)という要素があったので、発音そのものではなくて視覚と音声の知覚(聞き取り)という観点から音声学関連のことを書いていきます。
視覚と音声の知覚の話の前に、まずは冒頭・締めのあいさつについて。
今回も西畑くんがドラマ撮影のため不在とのことで、道枝くんが冒頭・締めともにリードを務めていました。
前回は「せーの」が無かったですが今回は「せーの」も含めて定型句がすべて出てきていました。
また、締めのあいさつも前回はイレギュラーでしたが、今回は「以上、なにわ男子でした」という定型句に戻りました。
ただ、普段であれば「以上」が西畑くん、「なにわ男子でした」が全員という形であるのに対して、今回は全部道枝くんが一人で言う(しかも、言い直して2回目あり)ということで、やはりイレギュラーであることには変わりありませんでしたね。
マガーク効果
「音を聞く」ことには耳(聴覚)が関係すると考える人が多いのではないかと思います。
これはもちろん正しい(例えば、聴覚に障害があれば音が聞こえにくくなりますよね)のですが、音の聞き取りには目(視覚)も関係することが知られています。
音の知覚に対する視覚の影響として有名な例はマガーク効果(McGurk effect (McGurk & MacDonald, 1976))と呼ばれる現象で、ba(b=発音の際、唇が閉じて開く動作)と発音している映像にgaという音声を組み合わせて、視覚から得られる情報と聴覚から得られる情報が一致しないような動画を作成すると、それを視聴した人は実際の音声(上記の例ではga)とは異なる音に聞こえる場合があるというものです。(「場合がある」というのは、個人差や環境(周囲の雑音の程度など)によってマガーク効果の出方が異なる場合もありうるという意味です。また、言語によってマガーク効果の出方が異なる可能性も指摘されています(Sekiyama & Tohkura, 1991)。)
音声の聞き取りが聴覚情報のみに頼っているのであれば、視覚から得られる情報がどのようなものであれ、実際の音声が聞こえるはずですが、実際の音声とは異なる音に聞こえるということから、視覚が音の聞き取りに影響する証拠だと見なされています。
読唇術の専門家ではない一般の人にもマガーク効果が観察されるということは、我々が発音の際に口がどう動くかについての知識を持っていて、無意識にではあっても普段からその知識を音声の聞き取りの際に活用しているということも示唆します。
例えば、コロナ禍でマスク生活が続いていた時期、発音が聞き取りにくいと感じた人もいるではないでしょうか?その原因はマスクやパーティションのせいで音が物理的に遮られて聞こえにくいというだけでなく、口元が見えない(視覚情報が得られない)ことによる影響というのも一因だった可能性があります。
聴覚に障害がない人でも口元が見えないと結構聞き取りにくさを感じますが、聴覚障害がある方にとっては口元が見えないことによる影響がより大きく、コロナ禍の間にニュースなどでもたびたび取り上げられていた記憶があります(実際、管理人は片方の耳に聴覚障害がありますが、相手の口元を見ながら聞くときと耳だけで聞くときでは聞き取りやすさが格段に違ってきます)。
視覚情報だけで聞きやすい発音、聞きにくい発音
ところで、視覚情報が音の聞き取りに役立つとは言っても、口元を見るだけですべての音が完璧に聞き取れるということではなく、口元から判別しやすい音、しにくい音というものがあります。
「子音の分類方法」で出てくる声帯振動の有無、調音点、調音法といった概念を理解していると、この点についてもかなり理解しやすくなります。
口元を見て判別しやすいのは、調音点(口のどこで狭めが起こるか)です。
例えば、pとk(bとgなどでもいいです)のように調音点が異なる音を鏡を見ながら発音(pa, kaのように母音を後ろに付けると良いです)してみると、口の動きが明らかに違うのが分かります(若干話が逸れますが、赤ちゃんの発音に両唇を使った音(パパ、ママなど)が多いというのも、唇を使うp, mなどの発音が赤ちゃんにとって最も視認しやすいからかもしれませんね)。
一方、声帯振動の有無による違い(pとbなど)や調音法の違い(tとs、bとmなど)については、発音時に口元を見ても調音点のようなはっきりとした違いが分かりにくくなります。
以上が大まかな大前提で、さらに細かく言うと、調音点の中でも見えやすい部分と見えにくい部分があり、口の前の方(唇など)を使う音は最も見えやすいので判別がしにくく、口の奥の方(軟口蓋など)の音は見えにくいので判別しづらくなることが予想されます。
ちなみに、自分にも聴覚障害がある関係で、20年近く前になりますが聴覚障害がある人の発音・聞き取りに関する研究を色々調べていた時期があるのですが、様々な研究で聴覚障害の人は見えやすい音ほど正しく発音できる傾向があると言われていて、母語によらずある程度の共通性が見られることも分かっています(古めの論文が多いですが、関心がある人のために、当時調べた関連する文献を参考文献リストに挙げておきます)。
本文中で取り上げたメンバーの発言や音声・図はすべて下記の動画の該当部分(具体的な個所は本文中に明記)から引用したもの。
本文中で言及した参考文献、関連する文献
【マガーク効果関連】
・McGurk, H., & MacDonald, J. (1976). Hearing lips and seeing voices. Nature, 264, 746-748.
・Sekiyama, K. & Tohkura, Y. (1991). McGurk effect in non-English listeners: few visual effects for Japanese subjects hearing Japanese syllables of high auditory intelligibility. The Journal of Acoustical Society of America. 90 (4), 1797-1805.
【聴覚障害、その他視覚と聴覚の関連に関するもの】
・Chin, S. B. (2003). Children’s consonant inventories after extended cochlear implant use. Journal of Speech, Language, and Hearing Research, 46, 849-862.
・Dodd, B. (1976). The phonological system of deaf children. Journal of Speech and Hearing Disorders, 41, 185-198.
・Dodd, B. J., & So, L. K. H. (1994). The phonological abilities of Cantonese-speaking children with hearing loss. Journal of Speech and Hearing Research, 37, 671-679.
・Nober, E. H. (1967). Articulation of the deaf. Exceptional Children, 33, 611-621.
・江口実美・鶴真佐信・緒方聖 (1966).「読唇法のみによつて言語を習得した聴覚障害児の言語能力について」『耳鼻咽喉科』38 (4), 371-375.
・中西靖子 (1991).「視覚,聴覚,視聴覚による語音の識別」『特殊教育研究施設報告』(東京学芸大学特殊教育研究施設), 40, 1-8.