今回は先週に引き続き北海道でのアポなし旅(第3弾)に関する内容でした。
今回も音声学関係で気になった点を挙げてみます。
前回からの続きの動画ということで、今回も冒頭・締めのあいさつともに省略されていました。
今回の動画のタイトルの一部に「ベーランで18秒目指せ」という表現がありました。
この「ベーラン」、どうやら「ベースランニング」が略されてできた短縮語のようで、「ツアーコンダクター」が「ツアコン」になったり、「あけましておめでとう」が「あけおめ」になるのとよく似たパターンとなっています。
さて、このような作られ方でできた語を短縮語(略語)と言いますが、短縮語は語形成的にいくつかのパターンに分けられることが知られています(もっと細かく言うと単純語の短縮と複合語の短縮に分けられますが、どちらも長い単語が短くなる点では共通しているのでここではまとめて扱うこととします)。
短縮語の語形成は大きく分けると2パターンで、前部要素と後部要素のどちらか一方のみを残すタイプと、前部要素と後部要素の一部を結合させるタイプがあります。
ちょうど今日、語形成に関する新刊の本(窪薗晴夫著『一般言語学から見た日本語の語形成と音韻構造』)が届いたので、以下にこの本からの例をいくつか引用してみます。
前部要素と後部要素のどちらか一方のみを残すタイプ | 前部要素と後部要素の一部を結合するタイプ |
・携帯/電話 → 携帯 ・学童/保育 → 学童 ・スーパー/マーケット → スーパー ・バレー/ボール → バレー | ポケット/モンスター → ポケモン ミス/コンテスト → ミスコン カラー/コンタクト → カラコン 終わった/コンテンツ → オワコン |
興味深いことに、短縮語においては↑の表の例のように単語の先頭部分を残すタイプが圧倒的に多く、後半部分を残すパターン(「インター/ネット → ネット」や「自動車/学校 → 車校」)は少数派であることも窪薗(2023)で指摘されています。
さて、「ベースランニング」が「ベーラン」となる例に話を戻すと、もともとの語の構造は「ベース/ランニング」と分かれ、前部要素と後部要素のそれぞれ先頭の部分を残して結合するタイプの短縮語ということで、短縮語の一般的な形成規則に完全に則った略し方になっていることが分かります。
管理人自身は「ベーラン」という表記だけ見たときは何のことやらさっぱり分かりませんでしたが、もとが「ベースランニング」だと分かったうえで「ベーラン」を見ると、なるほどなと妙に納得感がありました。
もしこれが「ベース/ランニング → スラニン」のように、一般的なルールから外れて前部要素と後部要素をまたいだ部分と、後部要素の途中を組み合わせて作られていたとしたら、ここまでの納得感は得られなかったはずなので、「ベーラン」に対してこうした納得感のようなものが生じたのも、これが語形成的に極めてオーソドックスな作られ方であるからだと言えそうです。
なお、↑で紹介した新刊(窪薗2023)にはもっとたくさんの例が挙げられていて、短縮語形成のルールについて様々な興味深い議論がされているので、こういった話題に関心がある人はぜひ読んでみることをお勧めします(文献情報は下記の参考文献欄に挙げてあります)。
本文中で取り上げたメンバーの発言や音声・図はすべて下記の動画の該当部分(具体的な個所は本文中に明記)から引用したもの。
本文中で引用した文献(語形成に関する本)
窪薗晴夫(2023)「一般言語学から見た日本語の語形成と音韻構造」, 東京:くろしお出版.