今回の動画は相関図シリーズの長尾くん版ということで、長尾くんの発音が大量に出てきていました。
毎回、動画を見ながら発音が気になったところのメモ(このサイトには書いていないことも含めて)を取っていますが、長尾くん推しということもあり普段よりメモを取るのにも気合が入りました。
たまたま今回の動画のアップデート日にとある大学で非常勤で担当する音声学の授業が始まり、ちょうどアクセントに関する話題を取り扱ったので、その流れで今回はアクセントを中心に書いていこうかと思います。
アクセントの話の前に、いつものように冒頭と締めのあいさつについて。
今回は冒頭・締めのあいさつともに省略されずに出てきましたが、「どうも~」の部分が新型タイプになっていて、しかも最初の「せーの」と比べてテンションが低いという印象を受けます。
テンション低めに聞こえる最大の理由は声の高さによると考えられます。
声の高さを計測してみると、「せーの」の部分は平均で370 Hz程度(最大のところで390 Hz程度)なのに対し、「どうも~」の部分は平均で300 Hz程度(最大で307 Hz程度)となっていて、「せーの」の部分に比べると明らかに声が低くなっています。
男性で300 Hzだと決して低いというわけではないですが、西畑くんのあいさつでは「せーの」と「どうも~」も同じ程度の高さで読まれるパターンが一般的になっているので、そういう前提で聞くからどうしても声が低く感じ、そこからテンションが低いという印象に繋がったということかもしれません。
このサイトの感想文シリーズではこれまでに何度もアクセントの話題を扱ってきましたが、最近授業の準備でアクセントの聞き取り練習の素材を探す中で、なにわ男子メンバーの自己紹介に関するある特徴(?)に気づきました。
通常、長尾くん自身は自分の名前を「ながおけんと」のように発音しています(※標準語では「ながおけんと」だと思いますが、本人はそれとは異なる型で発音。なお、下線部が低いトーン、下線無しで太字になっている部分が高いトーンです。)。
ただ、自己紹介で「(どうも!なにわ男子の)〇〇〇でーす」という型の文で発音する際、下の名前の音の下がり目(アクセント核)が無くなって平板になる(もしくは、最後の「でーす」に向かって徐々に高くなっていく)ことがしばしば起こるようなのです。
で、さらに深く見てみるために2020年のメンバーの自己紹介音声と2021年の自己紹介音声を聞き比べてみると、以前よりも最近の方が平板化の頻度が高く、程度も強くなってきている印象でした。
今回の動画で出てきた「長尾謙杜です」の場合、長尾は「ながお」ではなく「ながお」に、また、謙杜ははっきりとした下がり目のある「けんと」というよりも、「けんと」に近いような下がり目が感じられにくい音になっているようで、やはり平板化を起こしているようです(微妙なラインで、聞くたびに違って聞こえるような感じもします)。
年ごとの平板化の頻度についてはまだ少数のサンプルを取ってみただけで、徹底的に調べることができていないんですが、今回の動画で「ながお」が「ながお」になっていたことを考えると、平板化が起こる範囲がさらに広がって、下の名前だけでなく姓の方まで平板化を起こすケースが出てきている、みたいな解釈もできるかもしれないなと思い、新しく「メンバーの自己紹介時のアクセント」というテーマも研究プロジェクトの中に加えるつもりです。(最近はなかなか時間が取れないので気長に見ていこうと思います。)
なお、この平板化は名前にアクセント核(音の下がり目)が無い場合には起こり得ないので、もともと平板型の名前については対象外となります(メンバーのうち、高橋くんの名前である「恭平」(きょうへい)が平板型です)。
福本団のエピソードの中で長尾くんが「Aぇ!グループ」に言及していましたが、その際のアクセントが「ええグループ」のようになっていました。
過去の動画を見る限りでは、「Aぇ!」の部分は「ええ」と発音されていたのでこれが正式なのだと思っていましたが、今回は「ええ」のように下がり目が無くなっていて、班分けをするときのAグループ、Bグループ、Cグループ、・・・のようなアクセントで読まれていることになりますが、これは単なる言い間違いでしょうかね?
母音のuは、多くの言語では「円唇」(唇を丸く突き出すように発音される)で、かつ「後舌」(発音時に舌が後方(口の奥の方)に引かれる)という特徴を持ちますが、日本語のuはあまり唇を丸めないうえ、舌の位置も後舌よりもやや口の中央付近寄りに発音されます。
関西では東京などと比べると円唇性が強いという話を聞くし実際にそんな印象も受けますが、それでも他の言語のuと比べるとやはり円唇性・後舌性が相対的に弱いように聞こえます。
・・・というのが一般的な話なんですが、今回の長尾くんのトークの中で、Lilかんさいの當間琉巧(とうまるうく)くんの名前を発音する際に「どうなさいました?」と言いたくなるほどuの母音が円唇っぽく読まれている場面がありました。
ちなみに、常にそう発音されるということではなく、他の場面では日本語っぽいuで発音されていたので、これもたまたまだろうと推察しますが、母音のuは音声学の授業でも比較的よく取り上げられる話なのではないかと思うので、身近なところに存在する発音の例ということで皆さんと共有したいと思います。
単独で聞くと分かりにくいかもしれませんが、日本語っぽいuと円唇っぽいuを聞き比べると音色の違いが把握しやすいはずです。
日本語っぽいuで発音された「琉巧」(るうく)
円唇っぽいuで発音された「琉巧」(るうく)
「先生」に当たる存在という話題の中で複数回出てきた「最年少」というワードですが、その中に「さいねんしょう」ではなく、「せいねんしょう」っぽく聞こえる発音が出てきていました。
ちゃんと「さいねんしょう」と聞こえるものも含めて、サンプルを示します。
やや「せいねんしょう」っぽく聞こえる「最年少」
普通の「最年少」
さて、「さいねんしょう」→「せいねんしょう」というのは、ai → eː (※「えい」は実際には「えー」のように発音されます)という変化ですが、このような変化は実は母音の発音の仕組み上、自然な変化だと言えます。
母音は口の開き具合や舌の前後の位置を調整することでそれぞれの音色が作られますが、eを発音する際の口の構えは、aを発音するときとiを発音するときの構えを足して2で割ったような構えになり、aからiに口の構えを変化させる際、必然的にeの構えを通ってiの発音の構えに到達するような形になります。
ゆっくり時間をかけてaiを発音できる時であればそれほど問題になりませんが、会話の中で素早くaiと言おうとすると、a(←口が大きく開く)とi(←口の開きがとても狭くなる)の構えをするためには時間が足りず、口の開きが中途半端な状態で発音が終わってしまうといったことが生じます。
eというのは、口の開き具合がちょうどaとiの中間程度なので、この中途半端な状態になったときの発音は、eのように聞こえることになり、これがaiがeːっぽい発音になった理由だと考えられます(発音の原理から生じる現象なので、このタイプの発音変化は日本語に限らず世界の言語一般によく見られるものです)。
本文中で取り上げたメンバーの発言や音声・図はすべて下記の動画の該当部分(具体的な個所は本文中に明記)から引用したもの。