今回の動画はitoというカードゲームで遊ぶという内容でした。
今回も色々と興味深い発音が出てきましたが、ちょうど先日音声学の授業で扱った話題(声帯振動の有無、同化)に関連する発音が出てきたので、それを取り上げてみようかと思います。
「舞台&コンサートでの失敗」というお題についての道枝くんのエピソードの中で「2 Faced」という楽曲名が出てきました。
この中のfacedはfaceに-edが付いてできたものですが、今回はこの英語の-edの発音に関することを取り上げてみます。
英語の過去形・過去分詞形を作る-edには3つの発音のパターンがあり、綴りだとdと書かれているものの、状況によっては[d]ではなく[t]など別の音として発音されることがあります。
-edの発音と単語の具体例を示すと以下のような感じになります。
-edの発音 | 単語の例 | -edの前の発音 |
[ɪd]で読まれる | wanted, visited, started, needed landed, decided, … | t, d |
[d]で読まれる | rubbed, jogged, gazed, loved, judged, called, offered, named, listened, stayed, … | b, g, z, v, dʒ, l, r, m, n, eɪ (母音) |
[t]で読まれる | jumped, hoped, walked, asked, kissed, laughed, pushed, washed, watched, … | p, k, s, f, ʃ, tʃ |
-edの前の子音(=-edが付く単語の最後の子音)の発音(※綴りではない)によって-edがどの音で発音されるかを対応させてみると、とりあえず表のように分類でき、全く無秩序になっているわけではないことは分かります。
ただ、このままでは「[t]になるのはpのときとkのときとsのときと・・・」のように覚えていかなければならず面倒なので(ちなみに自分が中学生の頃はこれを丸暗記した覚えがあります・・・)、もう少し簡潔で覚えやすい規則があればそれに越したことはありません。
ここで役立つのが音声学の知識です。
これはこのサイトで過去に取り上げたことのある話題なのですぐにパターンが読み取れた人もいるかもしれませんが、子音の分類方法という観点で上に挙げた単語の例を分類し直してみると、以下のようになります。
-edの発音 | 単語の例 | -edの前の発音 |
[ɪd]で読まれる | wanted, visited, started, needed landed, decided, … | t, d |
[d]で読まれる | rubbed, jogged, gazed, loved, judged, called, offered, named, listened, stayed, … | d以外の有声音 |
[t]で読まれる | jumped, hoped, walked, asked, kissed, laughed, pushed, washed, watched, … | t以外の無声音 |
どの子音が有声音で、どの子音が無声音で、・・・という音声学的な概念を覚える必要があるので、結局丸暗記しなければいけないのは同じじゃないかというツッコミはあるかもしれませんが、音声学の知識が身についてしまえば、原則として、-edの前が有声音なら-edは[d]になり、前が無声音なら[t]になる(例外はt, d)という形で簡潔なルールで捉えることができます。
さらに、[d]は有声音、[t]は無声音なので、-edの発音は「前の音が有声音ならその後ろの-edも前の音に合わせて有声音(d)として発音される」、「前の音が無声音ならその後ろの-edも前に合わせて無声音(t)として発音される」というパターンになっていることに気付くことができ、前の音と後ろの音の声帯振動の有無(有声/無声)の条件を揃えようとして生じた発音変化である(前の音の影響で後ろの音が同じ要素を持つ音に変化する現象なので、順行同化(または進行同化))と解釈することもできます。
また、「発音の途中で声帯振動の有無(有声/無声)を何度も入れ替えるのは発音がしにくいから、同じタイプの音が続くようにして発音しやすくしようとしているのではないか?」といったように、そのような発音変化が生じる動機・理由についての洞察も得られます。
さて、以上で英語の-edの発音の規則が分かったということで、今回の動画に出てきたfacedの発音はどうなるか考えてみましょう。
faceは発音記号で書くと/feɪs/となり、綴りではeで終わっていますが発音上は語末はsで終わります。
上記の規則に従うと、sは無声音なので、-edが付いてfacedとなる場合、-ed部分は[t]の発音となり、[feɪst]となるはずですが、道枝くんの発音を聞く限りでは、facedは「フェイスド」[ɸeisɯdo]のように[d]で発音されていたようで、とても気になりました。
道枝くんによる「2 Faced」の発音
これ、単に道枝くんが英語の発音ルールを知らなかったという可能性もゼロではありませんが、それ以外にもいくつかの可能性がありそうだと思い、色々と考えてみました。
まず、「2 Faced」は固有名詞なので、通常とは異なるパターンの発音を正式名称としても何の問題も生じません。
あえて英語の発音ルールとは異なるルールで発音する(=無声音sの後の-edをあえて有声音とする)ことで独自性や別の意味を持たせるため、正式名称自体が意図的に本来の発音とは異なる発音となっていて、それが道枝くんの発音に反映された結果として「フェイスド」という発音になったのかもしれません。
また、日本人は特に発音コンプレックスがある人が多く、英語の「正しい発音」はネイティブスピーカーと全く同じように発音できることである(逆に、日本語的な発音は「間違い」)だと思い込んでいる人が多いですが、最近の(とも限りませんが)英語教育においては絶対的に正しい発音というのは存在しないし、ネイティブスピーカーと全く同じように「きれいに」発音できなくてはダメということもないという見方が一般的になりつつあります。
むしろ、「日本語的な英語」は日本人にしかできないものであり(※英語のネイティブスピーカーが日本人的英語の発音や発想を真似しようとしても完璧に真似することは困難)、これも「多様性」の一つとして認められて良い、むしろ、誇ってよいものだと考えることもできるので、そういった強い思いを込めてあえて「フェイスド」のように発音したという可能性も考えられそうです。
実際のところがどうなのかは分かりませんが、ともかくこれが今回の動画で特に気になった点の一つでした。
本文中で取り上げたメンバーの発言や音声・図はすべて下記の動画の該当部分(具体的な個所は本文中に明記)から引用したもの。