形態素とは
通常、どの言語でも、音素を組み合わせて語を作り、単語を組み合わせて句を作り・・・というように小さな要素をどんどん組み合わせることで文を作っていきます。
形態素は、音素と語の間に位置する単位で、「意味を持つ最小の単位」などとも言われます。
- その言語において語彙的または文法的な意味を持つ最小の単位
・自由形態素=単独で語として機能する形態素
・拘束形態素=単独では語として機能せず、他の形態素とくっついてしか使われない形態素 - 単位としての大きさ
・音素≦形態素≦語
例えば、「お茶」という単語を見たとき、「お」は付けることで丁寧な印象を付与する形態素、「茶」は飲み物の一種を示す形態素であり、2つの形態素から成り立っていると考えられます(お弁当(お+弁当)やお茶菓子(お+茶菓子)と同じ構造)。
また、英語のcatsであれば、猫を表す形態素catに複数を表す形態素sがくっついていると分析できます。
形態素のうち、単独で語として機能するものを自由形態素、単独では語として機能せず他の形態素とくっついてはじめて成立するものを拘束形態素と言います。
上の「お茶」や「cats」の例で言うと、茶とcatはそれぞれ単独でも語として機能するので自由形態素、丁寧な意味を表す「お」や複数形のsは単独では機能しないので拘束形態素となります。
自由形態素と拘束形態素の定義からも分かるように、「1つの形態素=1つの単語」となることもあれば、「複数の形態素=1つの単語」となることもあるので、単位の大きさとしては「音素≦形態素≦語」となります。
異形態
1つの形態素が状況によって異なる音形で現れる場合があり、そのときのそれぞれの音形を異形態と呼びます。
例えば、英語の過去形を表す -ed の発音には、以下に示すように /ɪd/, /d/, /t/ の3通りの発音があり、直前の音韻条件(-edの直前の音が有声音/無声音など)によってどの発音になるかが決まりますが、このとき、/ɪd/, /d/, /t/ のそれぞれが異形態ということになります。
過去形の-edの発音 | 条件 | 語例 |
/ɪd/となる場合 | -edの直前がtまたはd | wanted, landed |
/d/となる場合 | -edの直前が有声音(dを除く) | played, loved |
/t/となる場合 | -edの直前が無声音(tを除く) | looked, watched |
【参考】有声音、無声音などの子音の分類について詳しく知りたい方は、以下のページをご参照ください。
用語解説:子音の分類日本語で言うと、数を数えるときの「本」の読み方に「ぽん」「ほん」「ぼん」の3通りがありますが、これらも「本」の異形態だと考えられます。
数字+ぽん | 数字+ほん | 数字+ぼん | |
1本 | 〇(いっぽん) | ×(いっほん) | ×(いっぼん) |
2本 | ×(にぽん) | 〇(にほん) | ×(にぼん) |
3本 | ×(さんぽん) | 〇(さんほん) | 〇(さんぼん) |
4本 | ×(よんぽん) | 〇(よんほん) | ×(よんぼん) |
5本 | ×(ごぽん) | 〇(ごほん) | ×(ごぼん) |
6本 | 〇(ろっぽん) | ×(ろっほん) | ×(ろっぼん) |
7本 | ×(ななぽん) | 〇(ななほん) | ×(ななぼん) |
8本 | 〇(はっぽん) | ×(はっほん) ※はちほんなら〇 | ×(はっぼん) |
9本 | ×(きゅうぽん) | 〇(きゅうほん) | ×(きゅうぼん) |
10本 | 〇(じ(ゅ)っぽん) | ×(じ(ゅ)っほん/じゅうほん) | ×(じ(ゅ)っぼん/じゅうぼん) |
「本」を「ぼん」と読むのは「3本」のときのみなので、これを例外的なものだと考えると、数を数えるときの「本」の読み方は「本」の直前が促音(小さい「っ」)であるかどうか(促音なら「ぽん」、そうでなければ「ほん」)によって決まっています(「数字+本」以外にも、「日本」の読み方として「にっぽん」と「にほん」は存在するが、「にぽん」や「にっほん」が存在しないことなども、直前が促音なら「ぽん」、そうでないなら「ほん」と読むというルールで説明がつきます)。
つまり、日本語の「本」の異形態は、英語の過去形の異形態と同様、出現パターンが予測可能であると言えることになります。
このように、音形が現れる環境(条件)が決まっていて、同じ環境で2つの異形態が現れないような分布の仕方を相補分布と言い、中野弘三ほか(監修)の『英語学・言語学用語辞典』ではこの相補分布が異形態の特徴であると記述されています。
が、「何本」については「なんぼん」でも「なんほん」でもOK(つまり、同じ環境で2つの異形態が出現しうる)とか、時間を表すときの「数字+分」についても完全な相補分布にはなっていなかったりするので、常に相補分布が成り立つかどうかについては???というところでしょうか。
【参考】「数字+分」については以下のぺージで話題として扱っているので、興味のある方はご覧ください。
なにわTube【2023年2月21日】感想文中野弘三・服部義弘・小野隆啓・西原哲雄(監修)(2015)『英語学・言語学用語辞典』開拓社.