4thシングルであるSpecial Kissのリリースが翌日(Amazonで注文したら今日届きましたが)ということもあってか、今回も旅動画ではなくSpecial Kissにちなんだ(?)動画になっていました。
いつものように、今回の動画に関して発音面で気になった点の中からピックアップしたものを紹介していきます(これまでに取り上げてきたのと同じような現象だったりしますが、このサイトの趣旨から考えてそれで特に問題は生じないので良しとしています)。
まずはいつも通り冒頭・締めのあいさつから。
7人旅の動画の続きではなく、Special Kissにちなんだ個別の動画ということで、今回は冒頭・締めのあいさつ共にありました。
来週あたりには旅動画に戻ってあいさつが無くなる感じでしょうかね?
発音面では、これまでのあいさつと比べて特に目立った点というのは無かったと思います。
メンバーごとにお題のアイテムを決める際、高橋くんが引いたアイテムが長靴でした。
この長靴のアクセント、東京方言をはじめとするいわゆる標準的なアクセントでは平板型の「ながぐつ」(※下線が付いている部分が低いトーン、太字が高いトーンを意味しています)で、関西方言(※中井幸比古(2002)『京阪系アクセント辞典』のデータ)では低起無核ということで「ながぐつ」となりますが、なにわ男子の場合、メンバー間で関西アクセントの強さ(言い方を変えると東京への染まり具合)が違っているので、人によってアクセントが異なってきます。
今回の動画だと、長尾くんは関西タイプ(低起無核)の「ながぐつ」、高橋くんは東京タイプの「ながぐつ」(例示した音声に関しては、厳密には、高橋くんの発音だと「ながぐつ」と「ながぐつ」の中間くらい)で言っている時と、「ながぐつ」(←これだと、関西方言での長靴の伝統的なアクセント型ではないが、関西のアクセント体系の中には存在する型になっていると解釈できる)のように発音している場合がありました(高橋くんに関してはもう一か所「長靴」と発音しているところがありましたが、BGM等が重なっていたのでここでは除外しました)。
また、西畑くんはこの部分で「長靴」と計2回発音していましたが、2回のうち一回は東京タイプ、もう一回は関西タイプというように、発音のたびに発音が入れ替わる形になっていました。
一応、該当する部分の音声を挙げておきます。
長靴の発音:長尾くんの場合
「ながぐつ」(※低起無核の場合、「長靴で」のように助詞が付いていると高いトーンが後ろにずれるようなので、「ながぐつで」のような感じになっています。「な」と「が」の間でも若干トーンが上がっている感じもしますが、最後の高いトーンに向かって徐々に上がっているパターンだと解釈しました。)
長靴の発音:高橋くんの場合
「ながぐつ」
「ながぐつ」
長靴の発音:西畑くんの場合
「ながぐつ」(※最後の「つ」で拍内下降しています)
「ながぐつ」
長尾くんが引いたアイテムは「やかん」でしたが、その発音が「やかん」と「やがん」の中間くらいに聞こえるような感じの発音になっていました。
p, t, kのような無声閉鎖音は、(日本語の場合は弱いながらも)閉鎖の開放の際に気息(aspiration、VOTと言ったりもします)を生じるのが一般的ですが、その強さや長さの程度には個人差が結構あって、管理人が見るところ、メンバーの中でも長尾くんは気息が短めになることが多い印象です(気息が長くなればなるほど典型的な無声閉鎖音(p, t, k)になり、短くなると逆に有声閉鎖音(b, d, g)に近くなります)。
【参考】無声閉鎖音や有声閉鎖音などの子音の分類については、以下の用語解説のページで紹介しているので興味がある人はどうぞ。
用語解説:子音の分類また、単語の途中にある閉鎖音は閉鎖の動作が緩みがちになるので、発音時に閉鎖が緩んでしまっていて、閉鎖の開放自体も弱くなっていた可能性もあるかもしれません。
ここでの長尾くんの発音が「やがん」っぽかったのはそのような要因が重なったためだろうと推測して音響分析してみたもののkの部分でBGMががっつり重なってしまっていたのではっきりとは分かりませんでしたが、聴覚印象からはおそらくそのように解釈できると思います。
なお、今回の動画の中でも指摘されていたように、長尾くんは2022年10月25日動画でも「やかん」を引き当てていて、その時の発音でははっきりと「やかん」に聞こえていました。
ただ、過去の動画での2回の「やかん」を比べてみると、片方は気息がはっきり聞こえるのに対し、もう片方は気息が目立たないというように、同じ /k/ に聞こえる音でも実際の発音にはかなりのバリエーションが存在することが分かります(音素と異音という概念を知っている人であれば、音素 /k/ が気息や有声化、弱化の程度の異なる様々な異音を持っていると解釈できますね)。
参考までに、以下に当該部分の音声を例示しておきます。
長尾くんによる「やかん」
2022年10月25日動画における「やかん」
2023年3月7日動画における「やかん」
誤解が無いように補足しておくと、2023年3月7日動画に関しては、後半の方でも何度か長尾くんによる「やかん」という発音が登場しており、それらの発音では特に有声化しているという感じではなかったので、常に起こる変化ということではなく、むしろ有声化する方がレアケースだと言えます(常に有声化してしまっていたら日本語として明らかにおかしな発音になってしまうので、当然ですね)。
ちなみに、今回取り上げた気息の有無については、日本語を話すうえでは特に重要ではないですが、言語の中には気息の有無を聞き分けられないと子音の弁別が難しい言語もあります。
中国語や韓国語を学習したことがある人であれば、先生から「もっと息を強く!」と言われたりしたことがあるのではないかと思いますが、それがまさにこの気息のことを指しています。
長尾くんがやや有声化気味の「やかん」を発音してから間もなく、道枝くんも同じような発音の変化を起こしていました。
「やかん」の「か」の部分ではなく、「やかんはあかん」というダジャレの「あかん」の「か」ですが、発音上はかなり「が」に近いと言えるほどに有声化気味で閉鎖も弱化してしまっていました。
ちなみに、道枝くんは2022年10月25日動画でも同じ「やかんはあかん」というギャグを言っていた(しかも、2回)いましたが、そちらの方は有声化は特に起こしていませんでした(参考までに音声を例示しておきます)。
道枝くんのやかんはあかん
2022年10月25日動画における「やかんはあかん」
2023年3月7日動画における「やかんはあかん」
本文中で取り上げたメンバーの発言や音声・図はすべて下記の動画の該当部分(具体的な個所は本文中に明記)から引用したもの。
・2023年3月7日動画
・2022年10月25日動画
アクセント関連の参考文献
・中井幸比古(2002)『京阪系アクセント辞典』勉誠出版.