今回の動画は、2022年末に決めた2023年の目標を実際にやってみるという内容でした。
今日実際にやってみたのは高橋くんと大西くんの目標でしたが、来週以降も続くようで楽しみです。
さて、今日も音声学的に気づいた点を挙げていきます。
今回で完結ではない(次週以降も続編がある)ので、パターン的には締めのあいさつは無いことが予想され、実際に締めのあいさつはありませんでした。
冒頭あいさつについては通常通りで、発音部分に効果音が被ることもなく、ふざけて奇声を発するメンバーも少なかったので、久しぶりに分析しやすいあいさつでした。
大西くんの目標達成のための活動の中で、全員オールバックにしようという話の流れになった際に長尾くんが発したセリフに関して、テロップで「ビチョビチョ」という表現が出てきていました。
ただ、テロップでは「ビチョビチョ」となっているものの、実際の発音は促音(小さい「っ」)が入った「ビッチョビチョ」という音形になっていました。
この「ビチョビチョ」vs.「ビッチョビチョ」の例のように、繰り返し形を持つオノマトペの一部に促音が入ると、意味そのものは変わらないものの程度が強調されることがあります(以下、促音が入った形の方をオノマトペの強調形と呼ぶことにします)。
この強調形ですが、促音が入る位置に制約があることが知られています。
具体的に言うと、最初の要素に促音が入る形はOKですが、後半の要素に促音が入ると明らかにおかしくなります(以下の例参照。挙げた以外にもいろいろあるので自分でいくつか具体例を挙げてみると良いでしょう)。
元の形 | 前半要素に促音 | 後半要素に促音 |
びちょびちょ | びっちょびちょ | ×びちょびっちょ |
がたがた | がったがた | ×がたがった |
さくさく | さっくさく | ×さくさっく |
べとべと | べっとべと | ×べとべっと |
もちもち | もっちもち | ×もちもっち |
ふかふか | ふっかふか | ×ふかふっか |
さて、オノマトペの強調形の場合は前半の要素に促音を入れる形になりますが、同じく日本語の中の借用語を見てみると、前半要素には促音が入らずむしろ後半要素に促音が入るような現象もあります(以前この話はどこかで書いたかもしれませんが、覚えていないので改めて書きます)。
以下に挙げたのは英語のpick(発音上は/ pɪk /)、nick(発音上は/ nɪk /)、picnic(発音上は/ pɪknɪk /)の借用形です。
つづり | 発音記号 | 借用形 |
pick | / pɪk / | ピック ×ピク |
nick | / nɪk / | ニック ×ニク |
picnic | / pɪknɪk / | ピクニック ×ピックニック ×ピックニク ×ピクニク |
興味深い点の1つ目は、/ pɪk /と/ nɪk /はそれぞれ「ピック」「ニック」となるのだから、この2つが合わさった/ pɪknɪk /は「ピックニック」となっても良さそうなのに、そうはなっていないという点です。
さらに、オノマトペの強調形では促音は前半要素に入れていたので、借用語でも同じようになるのであれば「ピックニク」になってもおかしくないのに、そうはならずに後半要素にだけ促音が入った形になっているのも不思議な点です。
上の表を見てつづり字の影響(picかpickかの違い)だと思う人もいるかもしれませんが、picture(ピクチャー)とOlympic(オリンピック)のように、つづりは同じpicでも単語の最後に来る場合は促音が入るがそうでない場合は入らないというようなケースがあり、つづり字の影響ということだけでは説明が付きません(他にも、fix(フィックス ×フィクス) → fixer(フィクサー ×フィックサー)のように語末から離れると促音が入らなくなる例は多いです)。
なぜ借用語ではオノマトペの強調形と促音の入り方が違うのか?という問題について説明しようとすると長く複雑になるので、ここで説明することは避けて、代わりに参考文献欄に関連する論文を挙げておきます。
英語で書かれていてしかも長い論文ですが、興味がある方は読んでみるといいでしょう。
本文中で取り上げたメンバーの発言や音声・図はすべて下記の動画の該当部分(具体的な個所は本文中に明記)から引用したもの。
借用語の促音の入り方の非対称性に関する研究
・Kubozono, H., Takeyasu, H., & Giriko, M. (2013). On the positional asymmetry of consonant gemination in Japanese loanwords. Journal of East Asian Linguistics, 22(4), 339-371.