2022年8月9日のなにわTubeの動画は大喜利予想クイズというお笑い系の内容でしたが、今回もなにわ男子メンバー諸君は音声学的な話題を色々と提供してくれていました。
8月9日と言えばリーダーの大橋くんの誕生日ですが、それとは関係なくあくまで音声学的な観点から気になった点をメモしていきたいと思います。
8月2日の動画では新型の「どうも」の発音が登場したので今回はどうなるかと注目していましたが、今回は従来型の「どうも」でした。
この先変異型ばかりになったらどうしようかと少し心配だったので、ちょっとほっとしたところではあります。
それとは別に、冒頭のあいさつの中に出て来る「ちゅきちゅき~!」にも、以前の発音と比べると変化が生じ始めてきているのですが、今回の動画はそれがかなり顕著だったように思います。
「ちゅきちゅき~!」と発音するのを本来の型だと見なしたとき、本来の型通りに発音しているのは動画を見る限り大西くん、西畑くん、藤原氏の3名で、大橋くんは「ちゅ~き~ちゅ~き~」のように母音の音韻長の変化(もしくは発話速度の変化)が生じた発音になっていました。
さらに、動画の口の動きから推測すると、長尾くんは「ちゅ~き~」のように反復しない形に、また、道枝くんと高橋くんはそれぞれ「ちゅきー」「ちー」のような感じで、本来の形からはかなり離れた発音になっていました。
特に、高橋くんと道枝くんはみんなが「ちゅきちゅきー」と言い終わるのよりもかなり早いタイミングで言い終わって(口が閉じて)いて、かなり短い発音になっていることが伺われます。
こうした変化について、「年下組は挨拶を適当にしてけしからん」と取る人もいるかもしれませんが、もともと長い表現が短くなるのは言語としては自然なことで(例:こんにちは → ちわ)、もともとなにわ男子のあいさつの分析を始めた理由の一つがどのように変化が起こっているかを見ることだったこともあり、個人的にはとても言語学的に興味深い現象だと思って見ています。
西畑さんが大喜利のルール説明をしている中で出てきた「スタッフさんが・・・」という部分で、「フ」の子音を唇歯音fで発音している場面がありました。
日本語の「ふ」(フ)の音は、ローマ字(一般に使われているヘボン式の書き方)ではfuと書くので、「ふ」の子音はfだと思い込んでいる人も多いかと思いますが、日本語の「ふ」の子音は実は英語やその他外国語によく出て来るfとは異なる音です。
英語のfは、唇歯音といって上の歯と下唇の間で狭めを作り、そこに空気の乱流を作ることで摩擦を発生させてつくられる音です。
一方、日本語の「ふ」の子音の発音の際は、上の歯と下唇ではなく、上唇と下唇を接近させて狭めを作り、そこに空気の乱流を発生させることによって出される音です(発音する際、ろうそくの火を吹き消す際の唇の形とちょうど同じ形になるはずです)。
分類上は、日本語の「ふ」の子音は無声両唇摩擦音となり、発音記号では [ ɸ ] という記号が用いられます。
・・・ということで、「スタッフ」を日本語的に発音すれば「フ」は両唇摩擦音の [ ɸ ] で発音されるところですが、西畑くんの発音では英語と同じように上の歯と下唇で狭めを作る唇歯摩擦音の [ f ] になっていました(※静止画よりも動画の方がよりはっきりと分かるので、気になる方はぜひなにわTubeの動画をご覧ください。)。
さて、なぜ英語的な発音をしたのかが気になるところですが、これまでの管理人の観察によると、西畑くんはちょくちょく英語的な発音をすることが分かっています(最近で言うと、2022年8月2日動画における「どうも~」のdなど)。
管理人としては個人的に「西畑大吾、実は英語ペラペラ説(笑)」という仮説を提唱していまして、今回の例もそれを支持するデータの一つなのではないかと思ったりもしています。
ちなみに、この仮説を音声学の講義の中で披露したところ、受講していたある学生から「西畑に限ってそれはあり得ない」と完全に否定されました。
高橋君が「なんですか」を「なんでしゅか」と面白い言い間違いかたをした部分です。
単に動揺して言い間違ったというところでしょうが、音声学・音韻論的には「す」が「しゅ」に変わるという点は幼児の言い間違いによく出て来るパターンと同じ変化である点が興味深いところです(「なんでしゅか」という響きが何となく面白い感じに聞こえるのも、赤ちゃん言葉っぽくなっているからというのが一因でしょう)。
さて、幼児が母語の音体系を獲得していく際には、母語を問わず一定の法則が存在することが知られています。
例えば、幼児は唇を使って出す音(p, mなど)の獲得が早いとされています(多くの言語において、お父さんやお母さんを表す単語にはpやmなどの音が出てきやすいというのも、これと関係しているものと思われます)。
また、摩擦音(s, zなど)は閉鎖音(p, t, k)などよりも獲得が遅いとされ、幼児はまだ獲得できていない音をより簡単な音に置き換えて発音することも有名です(ぞうさん → どーたん)。
ただし、特定の音については獲得の順序(獲得しやすさ)が母語によって異なる面があることも知られていて、例えば日本語ではs(す)よりもʃ(しゅ)の方が獲得しやすい(ゆえに、幼児は「です」→「でしゅ」のようにsをʃに置き換える)とされていますが、英語の場合は逆でsよりもʃの方が獲得が遅いという報告があります(もちろん個人差も大きいので、絶対的な法則というよりは傾向という程度のものですが)。
言い間違いを「難しい発音がより簡単な発音に置き換わってしまう現象」と仮定すると、今回の「なんでしゅか」という言い間違いも、日本語を母語とする人ならではのものだったのかもしれません。
メンバーから「絶対無理」と言われて高橋くんが発したセリフですが、最後の「し」の母音iが無声化していました。
8月2日の動画では、藤原氏が通常母音の無声化が生じるところで無声化をしなかったというケースがありましたが、今回は通常起こるであろうところで普通に母音の無声化が起こっていたケースになります。
日本語母語話者の場合、母音の無声化が起きて母音が無くなっていても母音があるように感じてしまうのですが、よく音声を聞くと母音のiがなくて「し」の子音ʃだけが出ているのが分かるかと思います。
ありふれた現象ではありますが、管理人が知る限りでは高橋くんは発話末の母音に関して無声化を起こさずに発音することが多いイメージだったので、ちょっと新鮮な感じがしました。
なお、母音の無声化については以下の用語解説のページをご参照ください。
用語解説:母音の無声化出てきた大喜利を西畑くんが読み上げているところですが、「リーダー」が「レィダー」のような微妙な感じの発音になっていました。
同じ動画内の12分24秒付近では普通に「リーダー」と発音していたので、これも単にたまたま言い間違ってそのまま押し通したということでしょう。
ところで、こんな細かい言い間違いをいちいち取り上げるなんて、意地の悪い奴だと思われた方もいるかもしれませんが、言い間違いや聞き間違いの研究というのは音声学だけでなく心理学方面とも関係する大きなテーマの一つで、言い間違いに関する研究だけで数百ページもある本なんかもあるくらいです(大学4年間に自分の身の回りで起こった言い間違い・聞き間違いのデータを集めて卒論を書くなんてこともできますので、卒論のテーマ決めに困っている人は検討してみてもいいかもしれません)。
この手の研究には、言い間違いや聞き間違いのデータの収集が不可欠で、こうしたデータはいつ出て来るか分からないので、研究をしようと思ったら常に気を張っていないといけないのです。
10分25秒付近:南部鉄器使い
これも出てきた大喜利を西畑くんが読み上げている場面です。
「南部鉄器使い」の「使い」を「づかい」と発音していましたが、管理人自身の感覚では「つかい」と読むかなと思って、ちょっと気になりました。
このように単語が連続して複合語が形成されたとき、後半の要素の先頭の文字に濁点が付く現象を「連濁」と言います。
連濁は「ごみ」+「はこ」→「ごみばこ」のように日本語の中ではよく起こる現象ですが、「ぶた」+「しる」→「ぶたじる」と「みそ」+「しる」→「みそしる」の例からも分かるように、同じ単語(この場合、「汁」)であっても連濁を起こす場合と起こさない場合があります。
「使い」についても、魔法使いなら「つかい」ですが、人使いなら「づかい」となるなど、どちらのパターンもあり得るので、「南部鉄器使い」は「つかい」も「づかい」もどちらもあり得るのかもしれません。
このページを見ている皆さん自身はどちらの発音が自然だと感じますか?
※連濁についてはいずれ用語解説のページを作ろうと思っています。
動画内のテロップでは「かぎづめ」と表示されていましたが、西畑くんは「かぎつめ」と発音していて、西畑くんが読み間違ったような感じになっていますが、音声学的には自然な発音になったとも取れます。
「かぎづめ」と読むか「かぎつめ」と読むかは、南部鉄器使いと同じく連濁の問題ですが、連濁が生じやすさに関する要因の一つとして、「前部要素と後部要素のどちらかにもともと濁音がある場合、連濁が生じにくくなる」というものがあります。
鉤爪の場合、「かぎ」+「つめ」という構造になっていますが、前部要素である「かぎ」に「ぎ」という濁音が含まれているので、上記の法則に基づけば「つめ」は連濁を起こしにくい(「づめ」になりにくい)はずなのです。
西畑くんが「鉤爪」を「かぎつめ」と呼んだのも、こうした言語直観に基づいたものだと考えられます。
大喜利を西畑くんが読み上げる場面で、テロップでは「わっかりませ~ん」「うそぴょ~ん」と書かれているのに対し、実際の発音では「わっかり~ませ~ん」「うっそぴょ~ん」のように一部に長音や促音(小さい「っ」)が入った状態になっていました。
非常にどうでもいい話ではあるのですが、この長音と促音というのは日本語の中では「特殊拍」と呼ばれるタイプの音で、管理人はこの特殊拍に関する研究をずっとし続けていることもあって、大変気になってしまいます。
「わっかり~ませ~ん」も「うっそぴょ~ん」も、長音や促音が入ることによって、3モーラずつのまとまり([わっか][り~ま][せ~ん]や[うっそ][ぴょ~ん])になって発音されていたので、リズムを整えるために挿入されたのでしょうかね。