今回は7人旅動画の5回目ということで、山形県の花笠高原スキー場でスノーボードをするという内容でした。
いつものように気になった点をいくつか挙げてみます。
旅動画の続きということで、前回に引き続き冒頭・締めのあいさつ共にありませんでした。
去年(2022年)の旅動画は全部で10回分あり、2022年1月4日から始まって2022年3月8日で終了したのに対し、今年の旅動画は2023年3月21日時点でまだ5回目ということで若干遅めな感じがしますが、これは今年の旅動画開始が2023年2月7日からということでスタートのタイミングそのものが昨年より遅く、しかも3月に千輝くんやSpecial Kissの公開があって2月末~3月頭は旅動画以外の動画になった等々、諸々の事情があってのことです。
もし今年も旅動画が10回分あるとすると、4月末まで冬の7人旅の動画が続くことになりますが、さてどうなるでしょうか。
今回の動画にはスノーボードを指す略語が頻繁に出てきますが、動画タイトルでは「スノボ」(「スノボで華麗にスベる!!」)となっているのに対し、動画内のテロップでは「スノボー」と最後に長音が付いた形で表示されています。
また、なにわ男子メンバーの発音を聞くと「スノボ」だったり「スノボー」だったりしていて、表記の面でも発音の面でも揺れが見られます。
試しにGoogleで「スノボ」と「スノボー」という語で検索してみると、2023年3月21日22時頃の時点でスノボは1650万件のヒットだったのに対し、スノボーは589万件で、相対的にスノボーの方が少ないとはいえ、どちらも表記として充分に浸透しているように思われます。
個人的には「スノボー」よりも「スノボ」の方がなじみがある感じがしますが、では「スノボー」がおかしいかと言われるとそれほど違和感がありません(少なくとも、長音の有無という点で「ボタン」が「ボータン」になったり「ボード」が「ボド」となったりするのに比べれば)。
年代差、地域差などもあるかもしれませんが、多くの人が同じような感覚を抱くのではないでしょうか。
このように複数の表記が混在していると、「どちらが正しい(間違っている)のか?」といった議論がされることがありますが、言語学者(音声学者)の視点では、どちらが正しいとかいうよりも、「表記や発音が混在していてもなぜ違和感がないのか?」という点の方に関心を持ちます(そもそも、言語学では「絶対的に正しい日本語」のようなものは存在しないと考えるので・・・)。
違和感が生じない理由に関連する現象として、今回の動画を見ながらパッと思いついたのは以下の2点です。
語末長音の短音化
以前にも何度か書いたことがあるような気がしますが、特に外来語などでは語末の長音を書いても書かなくても発音の聞き取り上あまり違和感がないケースがあります(「コンピューター vs. コンピュータ」「プリンター vs. プリンタ」など。ちなみに、英語からの借用語の場合、英語の綴りにrがあると長音が入りやすく、rが無い場合は入りにくいという明確な傾向があるので、それに基づくとcomputerもprinterも長音が入る形が基本だと考え、ここでは長音が入らない形は短音化したものと見なしています)。
長音(長母音)の有無は、その母音が長く発音されるかどうかで決まります(長ければ長音、短ければ短音)。
日本人であれば長音があるかどうかは簡単に聞き取ることができると思われていて、実際にそれはかなり正しくはあるのですが、場合によっては長音の聞き取りが意外に難しくなることがあります。
典型的なのは語末(正確には、発話末)に母音がある場合で、発話末延長(発話の最後に来る音は長さが通常よりも延長される)という現象が起こるため、短母音であっても発話末に来るとやや長めに発音されがちになります。
結果的に、発話末では短母音と長母音の差が小さくなってしまいがちになり、聞き分けがしにくくなります。
ある音XとYの聞き分けがしにくいということは、XとYの音の違いが目立ちにくいのでXとYが入れ替わってもそのことに気づきにくいということです。
言い換えると、「末尾の位置では長音の聞き分けがしにくい≒長音があっても無くても気づきにくい」ということになり、実際、「コンピューター vs. コンピュータ」のような語末(聞き分けがしにくい位置)の長音の有無の違いにはあまり違和感がなくても、「コンピューター vs. コンピュター」のように語末以外(聞き分けがしやすい位置)での長音の有無についてはかなりの違和感を覚えることとなります。
明らかに違和感を覚えるような表記は採用されにくいため表記のゆれも起こりにくく、「コンピューター」と「コンピュター」という表記が共存することは起こらないのに対し、違和感がない表記であれば混在していてもそれほど気にならないので、「コンピューター」・「コンピュータ」のような表記のゆれが許容されると考えられるわけです。
話を「スノボー」と「スノボ」に戻すと、この2つの違いは語末の長音の有無にあることがわかりますね。
つまり、「コンピューター」・「コンピュータ」のときと全く同じ説明が当てはまり、語末長音はあっても無くても目立ちにくいから、「スノボー」でも「スノボ」でもそれほど違和感なく受け入れることができる、と考えることができます。
【補足】:「スノボ」・「スノボー」のような語末長音の有無以外にも、「ヤ」と「ア」(「ダイヤモンド」・「ダイアモンド」や「サイゼリヤ」・「サイゼリア」など)の違いによる複数の表記が違和感なく使われるといったパターンがありますが、これもやはり「ヤ」と「ア」の聞き分けのしにくさが関係しています。
略語の構造
略語の作られ方には色々なパターンがありますが、日本語で多いのは以下に示したように (1) 長い単語の前部要素の一部と後部要素の一部を組み合わせるパターンと、(2) 単語の先頭部分(前部要素の一部)を残すようなタイプです。(他にも、後部要素の一部を残す(六本木のことをポンギと言ったり、スノーボードのことをボードというような場合)パターンも無くはないですが少数派です。また、単語の先頭の文字を組み合わせる頭字語(North Atlantic Treaty Organization → NATO)のようなタイプもありますが、複雑になるのでここでは外しています。)
(1) 前部要素の一部+後部要素の一部
・カウントダウンコンサート → カウコン
・プリントクラブ → プリクラ
・あけましておめでとう → あけおめ
・パーソナルコンピューター → パソコン
・ハリーポッター → ハリポタ
・メール アドレス → メルアド/メアド
・アコースティックギター → アコギ
・コストパフォーマンス → コスパ
(2) 先頭部分(前部要素の一部)を残す
・マクドナルド → (関西では)マクド
・アニメーション → アニメ
・スターバックス → スタバ
・メタボリックシンドローム → メタボ
・サイゼリヤ → サイゼ
・ダイヤモンド → ダイヤ
・なにわ男子 → なにわ
・インスタグラム → インスタ
・イントロダクション → イントロ
・プレゼンテーション → プレゼン
例をざっと見てみると、(1)の「前部要素の一部+後部要素の一部」の場合、前部要素の先頭2文字分と後部要素の先頭2文字分を合わせて4文字(※音声学では4拍もしくは4モーラと言います)の単語になるパターンが多いのに対し、(2)のように先頭部分を残す場合には2文字ではなく3文字分を取って全体で3文字の単語になるパターンが多いなど、それぞれのパターンの中にも何らかの傾向があることが分かります。
もっとたくさんの単語を見て行けばもちろん例外はたくさん出てきますが、全体として、(1)の場合でも(2)の場合でも、略語が作られる際には4文字または3文字になることが多いと言うことができるでしょう。
ここで話をスノーボードに戻すと、スノーボードを略して「スノボー」(4文字)にしても「スノボ」(3文字)にしても、どちらも語の長さに関する略語のルール(略語が作られる際には4文字または3文字になることが多い)に反しておらず、典型的な略語としての形式を満たしていることになります。
この点も、「スノボー」と「スノボ」の間にそれほど違和感がない理由の一つかと思います。
上で挙げた略語の例に関して他にも興味深いのは、「前から〇文字分を取る」という場合、長音や促音など(いわゆる、特殊拍と呼ばれるもの)が無視されている点です(2文字取るという観点では、「パーソナルコンピューター」は「パーコン」となるはずだが、長音を無視して「パ」とその次の「ソ」で2文字取っている。「スターバックス」についても、前から3文字取るなら「スター」だが長音を無視して「スタ」とその次の「バ」を取って3文字になっている、など)。
中でも、「メールアドレス」が「メアド」になる例では、前部要素の1文字だけを取っていますが、おそらくは「メー」と2文字取ったうえで、発音上目立ちにくく消えても違和感が少ない長音(上述)を脱落させた結果生じた形だと考えることもでき、そのように考える方が略語の形成ルールに沿う形となるので自然かと思われます。
【補足】:上で挙げた略語の例に関して他にも興味深いのは、「前から〇文字分を取る」という場合、長音や促音など(いわゆる、特殊拍と呼ばれるもの)が無視されている点です(2文字取るという観点では、「パーソナルコンピューター」は「パーコン」となるはずだが、長音を無視して「パ」とその次の「ソ」で2文字取っている。「スターバックス」についても、前から3文字取るなら「スター」だが長音を無視して「スタ」とその次の「バ」を取って3文字になっている、など)。
中でも、「メールアドレス」が「メアド」になる例では、前部要素の1文字だけを取っていますが、おそらくは「メー」と2文字取ったうえで、発音上目立ちにくく消えても違和感が少ない長音(上述)を脱落させた結果生じた形だと考えることもでき、そのように考える方が略語の形成ルールに沿う形となるので自然かと思われます。
本文中で取り上げたメンバーの発言や音声・図はすべて下記の動画の該当部分(具体的な個所は本文中に明記)から引用したもの。