今回の動画は家族大喜利ということで、メンバーと家族の中の良さを感じさせつつとても面白い内容でした。
面白いとかかわいいとかいうコメントはSNS等で他の人たちがいくらでもしていると思うので、ここではいつも通り発音のことだけ扱っていきます。
4月で旅動画も終わり、5月からは冒頭・締めのあいさつとも出現する回が続くと思っていた矢先、家族大喜利は次回にも続くということで、締めのあいさつがありませんでした(※なにわTubeでは前編・後編のように続きものになる場合はあいさつが省略されるのがデフォルトのパターンです)。
家族大喜利は面白かったので続編もとても楽しみですが、あいさつの発音を観察するという観点からするとちょっと残念ではあります。
冒頭あいさつについても、普段とは異なり「せーの」が省略されていました。
「せーの」という発言が無かったから含まれていない可能性と、発言はされているが編集でカットされた可能性が考えられますが、「せーの」無しで「ちゅきちゅきー」の部分の出だしを揃えるのは難しいでしょうし(ちなみに、今回はいつも以上に出だしがきれいに揃っていた印象)、今回は動画冒頭の流れの中で冒頭あいさつが出てくる位置が普段とは異なっていたので、動画編集担当の人が普段とは違う人だったとかで、「せーの」が編集でカットされた可能性が高いのではないかな、と思っています。
それ以外の点では普段のあいさつと比べて特に大きな違いはなさそうでした。
※一部ネタバレが含まれますのでまだ動画を見ていない人はご注意ください。
今回の動画の大喜利のお題の中に、「『あっち向いてホイ』のリズムで何かイラっとさせて」というものがありました。
言語の「リズム」の定義には様々なタイプのものがありますが、このお題で言われている「リズム」は、各単語の長さをどのようにカウントするか(俳句で言う5・7・5のような数え方をした際に何カウント分になるか)という観点に基づく感覚のことを述べていると思われます。
この単語の長さをカウントする単位は言語によって異なり、日本語ではモーラ(拍)という単位がそれに該当します。
今回のなにわTube動画を見た方は、「あっち向いてホイ」にリズム的に似ている回答とあまり似ていない回答があったと直観的に感じたのではないかと思いますが(メンバーからは「語呂が悪い」みたいな指摘が入っていた回答がありましたが、これは「リズム的に合っていない」という意味合いが強いと思われます)、なぜこのような感覚の違いが生じるのか?という疑問については、このモーラに基づいて各回答を見てみるとよく分かります。
大喜利のお題には「あっち向いてホイのリズムで」という条件が付いているので、家族大喜利の各回答をモーラでカウントしてみましょう(モーラの数え方については現時点で用語解説のページ作成が間に合っていませんが、2023年4月11日の動画の感想文の中で多少詳しく触れていますので興味のある人は参照してみてください)。
各回答について、モーラ数=かな1文字なので、漢字は意図的にひらがな/カタカタに変換したうえで示すと、以下のようになります(カッコ内の数字がモーラ数です)。
お題 | あっち (3) | むいて (3) | ホイ (2) | 合計 (8) |
高橋くん父 | アイ (2) | アム (2) | マミー (3) | 合計 (7) |
大西くん母 | パソ (2) | ピペ (2) | パー (2) | 合計 (6) |
大西くん姉 | こっち (3) | いって (3) | あっちもいて (6) | 合計 (12) |
大西くん父 | おかね (3) | もって (3) | こい (2) | 合計 (8) |
西畑くん兄 | あ~い (3) | とぅいま (3) | てん (2) | 合計 (8) |
道枝くん父 | こっち (3) | みんな (3) | こら (2) | 合計 (8) |
長尾くん母 | へ (1) | こいて (3) | ねよ (2) | 合計 (6) |
藤原氏父 | いっこ (3) | あーげ (3) | ない (2) | 合計 (8) |
藤原氏母 | こっち (3) | みて (2) | フン (2) | 合計 (7) |
大橋くん父 | はなげ (3) | ぬいて (3) | ハイ (2) | 合計 (8) |
大喜利の回答としての面白さは抜きにして、あくまでモーラ数だけで見た場合、「あっち」「向いて」「ホイ」のそれぞれの部分とモーラ数が近くなっている(そして当然ですが合計のモーラ数が近くなっている)ほど、「あっち向いてホイのリズムで」というお題の条件を守っていることになります。
ということで、モーラ数に基づくと「お金持ってこい」「あ~いとぅいまてん」「こっち見んなこら」「いっこあーげない」「はなげぬいてハイ」などはお題の指定に合致していることになります。
繰り返しになりますが、モーラの観点のみで見た場合の話です。
実際には、モーラ以外にも「音節」などリズム感に関係する単位が他にも存在しますし、母音や子音の構成なども聞いたときの類似度に影響するはずです(また、大喜利の回答としての面白さという点では語の意味や言い方などもすべて含めて総合的に判断されるはずです)。
今回の動画では関西方言の特徴を示すアクセントが色々出てきていました。
中でも特徴的なのが、大喜利の回答の中にあった「屁こいて寝よ」の「屁」部分です。
関西方言では、1モーラ(←上のリズムの話でも出てきた単位ですね)の単語を言うとき(特にその単語に助詞などが付かず単独で言う場合)に母音を長母音化させて2モーラにするという特徴があり、「手」「目」「木」「血」・・・等の語が「てー」「めー」「きー」「ちー」のように発音されます。
今回の「屁」も1モーラの単語で、助詞がついて「屁を」のようにもなっていないので、文字上は「へこいて」ですが発音上は「へーこいて」のようになります。
この大喜利の回答を発音した長尾くんの発音(以下で引用している部分)でも、実際にそうなっています。
さらに、関西方言の場合、東京方言とは違って単語の最初の部分が相対的に高く始まるか低く始まるかでアクセントの型の区別があり、中井幸比古著『京阪式アクセント辞典』によると「屁」は低く始まる低起式で無核のアクセントとされています(ちなみに、「されている」のように書いているのは、管理人が関西方言のネイティブスピーカーではなく母語話者としての直観がないからです)。
ということで、「屁」は低く始まって単語の最後に向けて高く上がるピッチパターンになることが予想され、実際に長尾くんの発音を聞いてみると見事にそのパターンに一致していてちょっとした感動を覚えます。
大喜利の回答を読む直前に見てすぐに瞬時にそのアクセントのパターンで発音できるあたり、関西方言のネイティブスピーカーならではのことですね。
今日はすでにリズム関連とかアクセント関連でいっぱい書いたので、あとはアクセントに関して気になったところだけさらっと挙げて終わりにします。
長尾くんと西畑くんが「いいね」という場面がありましたが、長尾くんは「いいね(低低高)」「いいね(高低高)」2人のアクセントが異なっていました。
「良い」のアクセント型は『京阪式アクセント辞典』でも「L0=1」のように2パターン記載されていて、どちらも間違いではないようなのですが、関西方言ネイティブではない管理人からすると長尾くんのパターンの方が関西弁らしく感じます(辞書で確認するまでは、西畑くんが標準語に染まってそのように発音しているのだと考えてしまっていました。西畑くんは以前から「ちょっと東京行っただけですぐ標準語使っちゃう」などとメンバー内でもいじられていたので、ついそういうイメージで見てしまっていたのかもしれませんね、西畑くんすみません)。
長尾くんの発音の中で、「アニメ」の発音が2パターン出てきたのでとても印象に残りました。
最初に「アニメ」と低高低のパターンで発音して、その後訂正するような感じで「アニメ」と高低低のパターンで発音し、その後はずっとそのパターンだったので、たまたま言い間違っただけなのかもしれませんが、「アニメ」を低高低のパターンで言う人もいそうな気がします(『京阪式アクセント辞典』に載っていなかったのでよくわからずでした)。
高低低のパターンは標準語と同じパターンになるので、関西方言でもともとそのように言うのか、もともとは低高低のパターンで標準語の影響でアクセント型が変わってきたのか、どっちなんでしょうかね?(知人の関西出身の人に尋ねたところ、その人は「高低低」で読む、でも地域差もあるかもしれないとのことでした。)
最後に藤原氏の発言から。
管理人の方言では「イチャイチャ」(イが高くてあとは低い)と言いますが、藤原氏の発音では低起で最後が高く終わるという音調になっています。
関西ではこれが「イチャイチャ」の標準的な言い方なのでしょうかね?
本文中で取り上げたメンバーの発言や音声・図はすべて下記の動画の該当部分(具体的な個所は本文中に明記)から引用したもの。
関西方言アクセント関連の文献
中井幸比古(2002)『京阪式アクセント辞典』勉誠出版.